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春の力

車の運転が苦手だ。

もし道を間違えたら?
たった一本の正しい道を念入りに覚えてから、いざハンドルを握る私にとって、道を間違えることは遭難を意味する。万が一間違えたときは必ずUターンする。

ナビがあるでしょうと夫に言われる。
私にはナビの言うことがわからないことがよくある。
「南東へ進みます」どっち?
「700メートル先右折します」700ってどのくらい?
「左折レーンに気をつけてください」どうすれば?
「道なりです」「・・・」不安!
「到着しました」駐車場入り口は?
「案内を終了します」待って!見捨てないで!!

ナビは方向音痴が使うものと思われがちだけど、空間把握能力がある人を補うシステムだと思う。
方向音痴を舐めてもらっては困る。


私は月一、夫の運転で病院に連れて行ってもらっている。
けれど診察日が夫の出張と重なってしまい、私はひとりで病院まで行くことになった。初めはバスと電車で行くつもりだった。

その前日、久々の快晴と久々の体調の良さが重なって、広い芝生のある公園に行こうとハンドルを握った。もちろんスマホのナビとストリートビューを何度も確かめて。でもその日は「なんとかなるか」と思って、スマホのナビをONにして出発した。(車のナビは操作方法がわからない)
運転中はスマホの声と、当てにならない私の記憶力とで何とか無事に到着することができた。

まだ蕾でした

そして帰り道、そう、帰り道は景色が違うのだ!目印がない!これが方向音痴のなせる技なのか。
案の定道を間違えた。ナビが示す左折のひとつ前の道を左折してしまった。Uターンすることもできず、後ろには車が、、、
でもスマホのナビは私を見捨てなかった。私はナビの言うまま走り続けると、いつも夫と買い物で使う道が現れた。
「この道と繋がるのか。」
このセリフは空間把握能力のある夫の場合は、頭の中の地図が広がる感覚だろう。しかし今回の私の場合は、
♪この道はいつか来た道。あゝそおだよぉ〜♪の感覚。
Uターンすることなく無事に家に帰って来たことは、私にとっては大きな経験で「なんとかなる」と自信が持てた出来事だった。
ええ、例えそれが15分の道のりだったとしても。

話は戻って、病院へ行く日の朝。
儚い自信でも翌日までは持ち続けられたので、私は「なんとかなる」と車で病院まで行くことにした。
その決心がついたのはいつも行っている図書館が、自宅と病院のちょうど真ん中にあったからだ。そして図書館から病院まではなんと一本道。
心配なのは、病院前で2度の右折があること。あと長い一本道で、いつの間にか右折専用車線、左折専用車線を走ってしまうのではないかということ。
とにかく3車線の真ん中を走るという単純な対策をして、私は車で出発した。
途中、車とスマホのナビを両方セットしたもんだからハモっちゃって、慌てて車のナビを切った。スマホのナビの方が、共に試練をくぐってきた相棒のようだったから。
図書館を過ぎ、いよいよ初めての道を走る。順調に進んでしばらくするとなんとトンネルに入った!人生初のトンネル!!Googleマップではあまりわからなかったトンネル。
そして最終難関の右折。やらかしました。2車線の右折レーンがあり、病院へ入るにはもうひとつ右側の右折レーンに入らなければならなかった。そして私はウィンカーを出し、グリグリと割り込んだのだ。すみません。
こんな未知なる都会でUターンはかませません。

何とか無事に病院に着いたときには、緊張で手が冷たくなっていて、採血の針が血管を探し出すのに苦労していた。


今回の運転というチャレンジは私の中ではとても大きくて、「無理」と決めつけていたことを「なんとかなる」にまで持ってこれたのは嬉しいことだった。
いい天気といい体調と、春の力が生み出した「なんとなかる」は今回私にチャレンジする勇気をくれた気がする。
少しずつまた新しい場所へ自分で自分を連れて行ってあげようと思う。

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