秘密の場所
風が強い。朝起きると雨上がりの庭はたくさんの水滴でキラキラしていた。風は暖かく湿っている。迫力のある雲が右から左へすごい速さで流されていく。数羽のカラスがときおりバランスを崩しながら飛んでいる。庭では老犬が濡れた芝生を避けてレンガの道をゆっくり歩いている。日差しが強い。
昨日はひとりで家から少し離れた場所にある森林公園へ行ってきた。そこは子供が小さい頃に行っていた公園で、たくさんの遊具や水遊び場、大きな広場、白鳥や鴨などがいる広い池、ウォーキングコースやスタンプラリーなどがある。ここ数日ひとりになる時間が取れず、頭の中がざわざわして何かいろんなことがずれていく感覚がしたので、思い立ってすぐ出掛けた。
その公園へひとりで行くのは二度目で、一度目はいつもの散歩コースとは違うところに犬を連れて行こうと思って、下見に行くだけの予定だった。それが、そこがあまりに素晴らしくて気づけば二時間以上もそこで過ごしてしまっていた。平日だからかスタンプラリーの散策コースにはあまり人がいなくて、ときどき老夫婦やウォーキングする人とすれ違う程度だった。そこで私はコースから外れた、先が行き止まりの場所を見つけた。行き止まりの向こうには紅葉した山が一望できた。その場所への道はカーブしていて先が見えないようになっていた。大きな木々に囲まれた小さな空き地だが日の光は注がれていた。
今回は真っ直ぐその場所を目指して歩いた。この日も風が強かった。大きな木々の間を縫うように風が吹き、たくさんの枯れ葉を落としていく。歩くとまだ踏まれたことのない落ち葉が私の足元で大きな音を立てる。風が吹くたび立ち止まり、枝がぶつかる音や鳥たちのけたたましい鳴き声、大量の落ち葉の流される音などを聞いた。シャワーのように降ってくる黄色い落ち葉が日の光を浴びてキラキラ光っていた。木々が風の動きを教えてくれた。
あの場所にはやはり誰もいなかった。深呼吸して目を閉じ鳥の声を聞いたり、流されていく雲をぼんやり見たり、これからのことを考えたり、どのくらいそこにいたかはわからない。しばらくして日が陰ってきた。初めてここに来たとき、何となく誰かに「もう帰りなさい」と言われた気がしたのだけど、せっかく来たんだからと散策を続けていたらその夜熱を出してしまった。その声は雨が降る直前に教えてくれる感覚と似ていた。幾度となく洗濯物が救われている。今回もまた誰かに「もうそろそろ帰りなさい」と言われたので素直に駐車場に向かった。初日に見かけた大きな鷹にできればもう一度会いたかったが、次に期待しよう。
そしてこのnoteを書いている間にまた洗濯物が守られた。
老犬は相変わらずいつものコースを歩いている。
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