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もうしばらく江戸に

ここしばらく江戸の暮らしを堪能していた。

朝の冷えた空気の中、顔を洗うために井戸水をたらいに汲み上げ、同じ長屋のおかみさんに
「おはようさん、ええ天気やなぁ」
と挨拶をする。
棒手振りの魚売りからイキの良い鯵を二尾買い求め、使い古した包丁で捌いて七輪で焼く。

時には大店の小僧になって、店先を箒ではいたり柄杓で水を撒いたりして、お客さんが来たら、
「おいでやすぅ」
と声を上げる。
続いて大店の女将さんになって、
「伊勢屋の旦那さん、まぁよぉおいで下さいました。ささ、奥の方へ。うちのんが首をなごぉして待っとりますさかいに。」

時には煮売酒屋のお運びさんになって、料理人の作った菜を客の前に置きながら
「なんだい、そんなしけた顔してさ!これ食べて元気をお出しよ。」
と肩をぽんっと叩いたり。

終い湯に間に合うように、手拭い片手に裾を絡げて小走りで駆け込み、暖簾を潜って
「すぐに済むから入れとくれ!」
と番台に小粒を二つ投げ込む。

真っ暗な中、提灯で旦那様の足元を照らしながら歩き、目の前に現れた怪しげな浪人者に
「何奴。こんな夜更けに。旦那様、こちらへ。」
「お前、番頭ではないな?」
「いかにも。それがしは摂津屋の用心棒を務める〇〇。お相手仕る!」
鯉口を切り静かに刀を抜き正眼に構える。

いやあ、楽しい!

ちょいと持たされる握り飯の包み、夜鳴き蕎麦屋で啜る熱々の蕎麦、賄いの丼飯、ちろりの酒。

どいたどいた!!と走り去る飛脚、えいほえいほの掛け声の駕籠かき、しじみ〜しじみ〜の棒手振り、ピーピーと小笛を吹くあん摩。

島田髷のお内儀、印半纏の棟梁、着流しのお武家様、金襴緞子の花魁。


江戸時代の出来事や主要人物は全く知らないけれど、庶民の暮らしぶりは少し知れた気がする。
今のネット社会と同じ日本だなんて、本当に信じられない。江戸時代に生まれていたらなんて露ほども思わないけど。
歴史小説のシリーズものをたくさん読むと、まるで映像を見ているように当時の世界が頭の中に広がっていく。


さて蔵前通りにある甘味処の店先で、緋毛氈が引かれた縁台に腰掛けてぱくりと団子を頬張りながら、通りを歩く人々を眺めてみるとしますか。

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