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詩「本日も晴天為り」

わたしは本棚に棲んでいる
今日の髪色は桃の花
瞳は若草色に染めて
少し左を気にしつつ

隣の部屋で鳴り響く音楽
上の階はある種の異世界
下に階ではミシンが走る
壁にはドアノブがずらり並んで

ええ、そうね……。
オレンジのネコがこっちを見てるわ
カギしっぽをピンと立てて
黄色の水玉模様がとってもキュート
お気に入りのバレッタの横
蝶々結びのリボンがくつろいでるの

わたしは本棚を警備する
緩く巻いた栗色の髪
エメラルドグリーンの瞳の先
見据えているの いつかの記憶

たまに脳はお出かけも
雨音が呼び起こす偽りの郷愁
壁に流れる車窓に酔わされ
紫のワンピースに揺れた笑顔はまぼろし

まあ、そうね……。
大きな瞳のバンビが振り返る
机の上で咲いたガーベラは真白く光る
月が途方に暮れ 天上を見上げても
空っぽの香水瓶はどこまでも知らんぷり

隣の家の窓 カーテンのキミドリ
見ても良いのは寂しいときだけ
息を殺し 足音を殺し
最も死んでる君を思った
急な階段を降りた先
あの向こうには何がある?
感想は困惑
そのままが現在
意向もなにも
以降の思考も止めちゃえば
大したこともないんだわ

そう、ね……。
ネコは陽だまりの中で丸くなって
言葉は難解 愉快で不可解
巨大なチョコレートを食べてみたり
スキャンしたのは等身大の現在とやら

意を決するなら
まさに、いまだわ
ああなんて耳が鬱陶しい
左に少し傾いた視界に映る
世界ですらも丸いらしいの

わたしは本棚に夢を見る
金糸の髪を梳いてから
スカイブルーの瞳を見開いて
口角はしっかり上げるの 大丈夫?

飛び降りるなら
まさに、いまよね?
バイエリンケースに身を隠し
踏み外すなよ?
そちらもどちらも
居心地は住めば都よ
世界はどうせ丸いのだから

どうせ丸いの
廻り廻るの
「いってきます」と勇んで出発
円周率を唱えつつ
一直線に進んでいたのに
どうせ戻るの「お帰りなさい」

わたしは本棚に閉じこもる
わたしは本棚に世界をみつける

わたしは本棚に並べられ
収拾つかない 塞げもしない
叫び暴れ喚き散らす 己の核
ここには置いてはおけないのだと
まさに、いま
思い知った 丸くもなかった
ねえ、わたし?

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