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"想像する視点"と"向かう先のわからない音楽" 【撮影・音楽 寺西涼インタビュー】

制作経緯をまとめる公式note3回目。

今回は作品を構成する大事な要素である撮影と音楽にフォーカスします。

『はこぶね』はキャスト陣のお芝居にご注目頂くことが多い一方、画と音の要素についても強い関心を寄せて頂くことがあります。本作ではその画と音を構成する撮影/音楽のどちらも寺西涼さんが担当しています。

今回は寺西涼さんへのインタビュー会形式でどのように『はこぶね』の画と音楽を作っていったかをまとめます。

寺西涼プロフィール

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主観と客観。想像する視点。

大西諒(監督・脚本):
今回、視力を失った西村を主人公とした映画だったけど、撮影アプローチを決めるにあたってどういうことを考えていた?

寺西涼(撮影・音楽):
どうだろう。話した記憶があるのは、まずは主観映像の使い方のところかな。

大西:
覚えてる。一番初めに相談した時、僕は割と西村の主観も交えながら撮影することを検討したいと言った。触覚や聴覚を使って西村が見ているものを視覚的に置き換えて撮影するみたいな。一番わかりやすく言うと西村が触ったところを映すことによる西村主観とか。

寺西:
そうそう。

大西:
『はこぶね』は最終的にそういう西村の主観にあたるような撮影をなるべく排して進めたけど、それは寺西くんの提案によるところが大きい。そのアプローチを取って本当に良かった。

寺西:
この映画の主人公は西村だけど、脚本を読んだときに西村の物語というよりは舞台となった港町の物語で、群像劇だと思ったから。

大西:
それは間違いなくそうだね。町全体の物語。

寺西:
だからそこはあまり悩まなかった。

大西:
僕も撮影の前後で徐々に自分が書いた脚本の理解を深めていったけど、この映画は他者が世界をどう見ているかを想像する話なんだよね。それぞれの登場人物が、他の人が何を考えているか、世界をどのように認知しているかを想像する話。目が見えない西村や、認知症のおじいちゃんは、世界の見方や捉え方に特徴があるわけだけど、それがどんなものなのかを第三者が想像している感じ。「想像する視点」と言っても良いかもしれない。想像するのは常に第三者だから、西村やおじいちゃんの主観で画を構成することはナンセンスになる。

寺西:
うん、なるほど。

大西:
だから、寺西くんの正しいアプローチに感謝している。僕が加えようとしたナンセンスな選択肢を排して、第三者の視点を中心にそえてくれた。

観て頂いた方からのコメントで、"人物を背中から取ったり、横から取ったりするショットが相対的に多いのが印象的"と言ってもらうことがあるんだけど、これはどんな意図だった?

寺西:
言われてみればそうかもしれない。

大西:
その感想をもらった後に改めて理由を考えたことなんだけど、さっきの「想像する視点」と同じ話なんじゃないかと思った。バックショットはその対象の人が何かを見ている、感じていることを印象付ける。一方で、後ろから取っていて表情が見えないこともあって何を感じているか、見る側にとっての想像の余白が大きい。そう言う意味で一貫した「想像する視点」のアプローチを寺西くんが取ってくれたんじゃないかと。

寺西:
なるほど。一方でバックショットと横からの画が多いのは、西村と関わる人の位置関係によるところもあると思う。相手が西村の正面でなく横とか後ろにいる事が多くて、それを素直に撮っていった結果な気もする。完成した映画を観ると、撮影する前から一貫した狙いがあるように見えるかも知れないけど、結構お芝居が要請するカメラ位置に素直に置いてった記憶。チンジャオロースの所とか正面のカットもあるはあるし。

大西:
なるほど。確かにそもそも人物が向かい合って喋ってる場面自体少ないね。

カメラと被写体のスピード

大西:
撮影のアプローチについて、そのほか気にしていたとこと、考えていたことはある?

寺西:
手持ちカメラ中心にするか、フィックス中心にするかは考えた。手持ちというか、やるとしたら三脚にテニスボールを挟んでレンズを動かすスタイルだったけど。

大西:
結果、フィックス中心にしたと思うけど、それはどういう考えだった?

寺西:
手持ちの場合は、ビート感が生まれると思ってるんですよ。手持ちで撮ると映っている空間が通り過ぎる感じがある。フィックスにするよりもレンズの動きが速くなるから、空間が流れて残像として映ることが増えたり。この作品にはそのビート感じゃない方がいいと思った。西村が地面を踏みしめながら歩くスピードに合わせて撮る方が作品にフィットすると思った。

大西:
なるほど。ビート感。そういえば、寺西くんが今回カメラを動かしてるシーンはかなり少ないけど、数少ないその場面は西村が歩いているシーンが多い。カメラを動かすタイミングでも、この映画のテンポを表現してくれてる感じだな。

向かう先の見えない音楽

大西:
音楽はどう?どんなことを気にして作ってくれた?

寺西:
僕は劇伴のプロじゃ無い人が映画向けに作ってる音楽が好きで。そんな感じにしたかった。そう言う人が作っているのはちょっとチグハグ感があると言うか。

大西:
感情の説明が目的になってない音楽の方が良い、みたいな?

寺西:
それもあるけど、それだけじゃなくて。例えば、ケリー・ライカートの『OLD JOY』でヨラテンゴがつけてる音楽とか好きなんだけど、あの映画と一体化しきってない感じとかが好き。

大西:
むずいな。

寺西:
なんだろうな。どこに向かっていくのかわからない音楽にしたいというか。

大西:
あぁなるほど。

寺西:
そう。そう言う音楽をつけてるのは、劇伴のプロじゃ無い人が作ってる事が多い気がする。そういう意味で、『はこぶね』の音楽もシーンに応じていわゆる劇伴的な音をつけてるところもありながら、どこへ向かっていくのかわからないタイプの音楽をつけようとしたところもある。

大西:
なるほど。どこに向かっていくかわからない感じの音楽が作品をめちゃくちゃひきたててくれた気がする。

寺西:
あとは元々大西さんが音楽をつけたい箇所にイメージする既成の曲を当ててくれていたけど、そのイメージする曲でついていたものでエレクトリック調だったところはアコースティックに、アコースティックだったところはエレクトリック調の曲を当てた。そのほうがこの映画の湿度を表せると思った。

以上インタビュー
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『はこぶね』にはオープニングから音楽が入る。電子音を使いながら和の要素を感じさせる不思議な音階と音響の曲。まさに向かう先のわからない音楽かもしれない。

『はこぶね』サウンドトラック

現在、これらの曲を収録した『はこぶね』サウンドトラックを劇場物販で700円で販売しております。本編をご覧になって音楽が気になっていた方はぜひお買い求めください。

サウンドトラック鑑賞会:案内

また、ポレポレ東中野 10/1(日)20:00の回では上映後にサウンドトラック鑑賞会を行います。暗闇の劇場で視覚に気を取られずに聴く楽曲群は、映画の余韻に一層浸らせてくれるものになると思います。

ご予約はポレポレ東中野HPの10/1(日)上映会の座席予約から可能です。是非ご参加頂ければと思います!

『はこぶね』監督 大西諒

映画『はこぶね』(2022)

■キャスト
 木村 知貴、高見 こころ、内田 春菊、外波山 文明、
 五十嵐 美紀、愛田 天麻 、森 海斗、範多 美樹、高橋 信二朗、谷口 侑人

■スタッフ
 監督•脚本•編集:大西 諒     撮影•音楽:寺西 凉
 録音:三村 一馬         照明 :石塚 大樹
 演出•制作:梅澤 舞佳、稲生 遼   美術 :玉井 裕美
 ヘアメイク:くつみ 綾音      題字:道田 里羽
 宣伝企画:川口 瞬、山中美友紀   宣伝イラスト:野本 修平
 宣伝美術:鈴木 大輔
 2022年 | 99分 |日本 |シネマスコープ |宣伝・配給:空架 -soraca- film

■受賞歴
第16回 田辺・弁慶映画祭 弁慶グランプリ&観客賞&フィルミネーション賞&俳優賞スペシャルメンション(木村知貴)
第23回 TAMA NEW WAVE グランプリ&ベスト男優賞(木村知貴)

■お問い合わせ
 宣伝・配給: 空架 -soraca- film / soraca.film@gmail.com

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