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同性パートナーのために遺言書を作るポイントは?

同居している同性カップルのなかには、生活費の引き落とし口座の名義をどちらか一方にしている方々がいらっしゃるのではないでしょうか。また、自宅の名義をどちらか一方にして、住宅ローンはふたりで返済したという方々もいらっしゃるかもしれません。

そこで今回は、このようなカップルのどちらか一方が亡くなったときに、のこされた方が安心して暮らせるようにするための、遺言書を作るポイントをご一緒に見ていきましょう。

遺言書を作らないリスクは?

すべての遺産が親族に引き渡される

日本では同性婚が認められていないため、同性パートナーは「当然に相続人」になれません。

遺言書がない場合は、民法に従って相続人に遺産が引き継がれます。これを法定相続分といいます。

遺言書を作っておかないと、ふたりが築きあげてきた財産であっても、その財産の名義となっている方の親族(相続人)にすべて引き渡される可能性が高いです。

養子縁組をしている場合でも、家族構成によってはパートナーが相続人になれない可能性などがあり、注意が必要です(後述)。

自宅に住めなくなる

自宅の所有権が相続した親族に移ると、のこされたパートナーは、親族から自宅を明け渡すよう求められる可能性が高くなります。

そうなると住むところがなくなり、その後の生活に大きな悪影響を及ぼす恐れが出てきます。

なお、異性間の事実婚(内縁)の場合は、黙示の使用貸借契約が成立していたと認められ、相続人からの建物明渡請求が棄却された判例があります(大阪高判平22・10・21)。

預貯金が引き出せなくなる

生活費の支払いや貯金などのために、おふたり共有の口座を開設している方々の場合、名義人となっている方が亡くなると、その口座は凍結されてしまい、お金の引き出しができなくなってしまいます。

そして、口座に入っているお金は、相続した親族に引き渡される可能性が高いです。

認知症などで判断能力が失われた場合も、口座が凍結される恐れがあるので、事前の対策が必要です。

遺言書を作るポイントは?

公正証書遺言で作成する

遺言書は、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があり、それぞれにメリット・デメリットがありますが、同性カップルの場合は、できるだけ公正証書遺言で作成することをおすすめします。

法律の専門家である公証人が作成に関わることで無効になるリスクが下がり、確実にパートナーへ遺産を渡すことができます。

自筆証書遺言で作成する場合でも、行政書士などの専門家にチェックをしてもらったり、法務局に遺言書を保管する制度(自筆証書遺言書保管制度)を利用することをおすすめします。

特定遺贈か全部包括遺贈を指定する

同性パートナーに相続をさせることはできませんが、遺言書で意思表示をすることで、相続人以外の人にも遺産を贈ることができます。これを遺贈といいます。

遺贈をする場合は、遺産分割協議(遺産の分け方などについて相続人全員の合意を得るために、相続人全員で話し合うこと)を必要としない特定遺贈か、全部包括遺贈のどちらかを選ぶことをおすすめします。

特定遺贈は、財産を特定して遺贈することをいいます。

第○条 遺言者は、遺言者の有する次の不動産を、○○○○(昭和○○年○○月○○日生、東京都○○市○○町○○丁目○○番地○○号)に遺贈する。
(1)土地
所在 東京都○○市○○町○○丁目
地番 ○○番○○
地目 宅地
地積 ○○○.○○平方メートル
(2)家屋
所在   東京都○○市○○町○○丁目○○番地
家屋番号 ○○番○○
種類   居宅
構造   鉄筋コンクリート造五階建
床面積  三階 ○○.○○平方メートル
(3)遺言者名義の○○銀行○○支店 口座番号○○○○○○の預金全額と利息全額

全部包括遺贈は、全財産を遺贈することをいいます。

第○条 遺言者は、遺言者の有するすべての財産を、○○○○(昭和○○年○○月○○日生、東京都○○市○○町○○丁目○○番地○○号)に包括して遺贈する。

もうひとつの方法である一部包括遺贈は、「財産の2分の1を遺贈する」のように、財産を特定せずに財産の一部を遺贈することです。

一部包括遺贈の場合は、遺産分割協議を開く必要があります。この場にのこされたパートナーが入ると、大きな負担をかけさせてしまうかもしれません。

遺留分に配慮する

遺産の分け方・処分の仕方は、遺言書で遺言者が意思表示した方法が優先されます。しかし、法定相続人のうち配偶者・子・親には、その生活を守るために、最低限相続できる遺留分が認められています。

この遺留分を超えてパートナーに遺贈をした場合、遺留分の権利がある人は、もらえなかった遺留分の相当額をパートナーに請求することができます。これを遺留分侵害額請求といいます。

特に、親が健在である場合は、パートナーと親との間にトラブルが起きないように、遺留分に配慮した財産の分け方を検討することをおすすめします。

遺言執行者に専門家を指定する

遺言執行者(遺言の内容を実行してくれる人)は必ず指定しなければならないものではありませんが、同性カップルの場合は、行政書士などの相続の専門家を指定しておくことをおすすめします。

相続手続がスムーズに進むだけでなく、パートナーと相続人と間でトラブルが起きそうになった場合でも、第三者の専門家が間に入ることで、パートナーを矢面に立たせずに済みます。

第○条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として下記の者を指定する。
東京都○○市○○町○○丁目○○番地
行政書士 ○○○○
昭和○○年○○月○○日生

祭祀主宰者を指定する

祭祀主宰者とは、お墓、仏壇、位牌などの祭祀財産の管理や、法事などを主宰をする人のことです。

パートナーに喪主になってほしかったり、墓守りをしてほしいという場合は、遺言書でパートナーを祭祀主宰者に指定することをおすすめします。

第○条 遺言者は、祖先の祭祀を主宰する者として○○○○(昭和○○年○○月○○日生、東京都○○市○○町○○丁目○○番地○○号)を指定する。

付言事項を書く

遺言書には、お世話になった人への感謝や、家族や自分が大切にしてきたものへの気持ち、願いなどを書くことができます。この文章を付言事項といいます。

付言事項に法的な効力はありませんが、トラブルを防ぐ効果があるといわれています。

相続人の中には、遺言に書かれた遺産の分け方や処分の仕方に不満や疑問を感じる人もいるかもしれません。付言事項で想いを書くことで、納得してもらえる可能性が高まります。

また、付言事項でパートナーについてふれることで、パートナーへの想いや家族へのメッセージを伝えることができます。

自分に何かあったとき、○○が安心して暮らせるように、この遺言書を作成しました。
○○、これまで連れ添ってくれて本当にありがとう。
父さんと母さん、○○のことを紹介していませんでしたが、○○のおかげで幸せな人生を送ることができました。
どうか私の気持ちを理解して、○○を支えてあげてください。よろしくお願いします。

終活に関する注意点は?

遺贈は相続税が高くなる可能性がある

遺贈の場合、相続と同じように、遺贈された財産に対して相続税がかかります。

しかし、法律婚の配偶者の場合と異なり、基礎控除額の計算式の「法定相続人の数」に含まれなかったり、2割加算の対象になることがあるので、注意が必要です。

相続税の基礎控除額の計算式

基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

くわしくは、税金の専門家である税理士に相談することをおすすめします。

法律婚の配偶者と同じ相続権や法定相続分が認められていない

養子縁組をしているカップルの場合は、年長の方が養親、年少の方が養子として、実親や実子と同じように法定相続人になります。

ただし、法律婚の配偶者と同じ相続権や法定相続分が認められていない点に注意が必要です。

  • 年少パートナー(養子)に子がいる場合⇒子が相続放棄をしない限り、年長パートナー(養親)は相続人にならない

  • 年少パートナーに子はいないが、親が健在である場合⇒法定相続の場合は、親と年長パートナーとで等分

  • 年長パートナーに子がいる場合⇒法定相続の場合は、子と年少パートナーとで等分

パートナーとは別の用紙で遺言書を作る

パートナーと一緒に遺言書を作りたいという場合でも、別の用紙でそれぞれに遺言書を作るようにしてください。

1枚の用紙に2人以上で書くことは、共同遺言といって無効になります。これは、遺言の自由が制約され,遺言の撤回も自由にできなくなってしまうためです。

死後事務委任契約も検討する

パートナーに自分が亡くなった後のことをお願いしたい場合は、遺言書とは別に、死後事務委任契約の作成も検討することをおすすめします。

次のようなことを遺言書に書いても法的な効力は発生しません。

  • 遺体の引き取り・葬儀・埋葬

  • 家財道具・生活用品等の処分

  • 死亡届、健康保険、介護保険、年金、税金等の手続

  • 各種サービスの解約(公共料金、インターネット、新聞、クレジットカード、生命保険、損害保険等)

  • 税金・医療費・介護費等の未払金の精算

まとめ

亡くなった後も、ともに人生を歩んできたパートナーが安心して暮らせるようにするためには、この記事で紹介したようなポイントに気をつけながら遺言書を作っておく必要があります。

遺言書の作成について疑問や不安がありましたら、どんな小さなことでもお気軽にご相談ください。

最後までお読みいただきありがとうございました!^ ^