見出し画像

医療意思表示書とは?

同性カップルの方々は、どちらが一方が病気やケガで入院したときに、パートナーに病状を説明してくれるのか、面会できるのか不安に感じている方も多いと思います。

そこで今回は、突然の入院に備えた書面である医療意思表示書についてご一緒に見ていきましょう。


医療意思表示書とは?

医療行為に関する説明・同意を特定の人に委ねたり、希望を記した書面

「医療判断代理委任状」などということもあります。

どんなことを書くの?

「○○さんに搬送先・病状・症状等を説明して欲しい」「○○さんとの面会を希望します」のように、具体的な希望を書きます。

例えば、次のように作成します。

医療に関する意思表示書(例)
住所
氏名
連絡先電話番号
1 私は、上記の者が「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(厚生労働省)記載の「家族等」に当たることをここに証明します。
2 私は、その通院・入院・手術時及び危篤時において、上記の者に対し、通常親族に認められる次の事項について、一切の権限を委任します。
(1)委任者への医療行為に関する説明・同意
(2)カルテ開示に関する同意
(3)治療方針決定への同意
3 私は、その通院・入院・手術時及び危篤時において、上記の者に対し、入院時の付添い、面会謝絶時の面会、手術同意書への署名等を含む通常親族に与えられる権利の行使につき、本人の最近親の親族に優先する権利を付与します。
年 月 日
住所
氏名(本人署名)  印
生年月日

家族・親族が優先されるのはなぜ?

直接的に定めた法律はない

そもそも救急・医療・介護現場で、家族や親族に優先して連絡を取ったりり、面会が許されるのはなぜなのでしょうか。

病状の説明や、病院・介護施設での面会について、法律では直接的に定めたものはありませんが、民法の家族に関する規定(第752条、第730条、第877条など)をもとに慣習として行われていると考えられています。

個人情報保護法やガイドラインは「本人の同意」を重視

救急・医療・介護の現場では、患者・利用者の個人情報・プライバシーの保護と自己決定を大切にしています。そこで、個人情報保護法やガイドラインでは、どのように決められているかを見ていきましょう。

まず、個人情報保護法は、あらかじめ本人の同意を得ている場合は、個人情報を第三者に提供することができることを示しています。

第27条 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。

出典:個人情報の保護に関する法律(太字筆者)

病状説明ができる範囲とは

厚生労働省の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」という文書では、本人の同意が得られれば、病状説明ができる対象を、家族だけではなく、実際に患者・利用者の世話をしている親族や、親族に準ずるひとも加えることができるとしています。

法においては、個人データを第三者提供する場合には、あらかじめ本人の同意を得ることを原則としている。一方、病態によっては、治療等を進めるに当たり、本人だけでなく家族等の同意を得る必要がある場合もある。家族等への病状説明については、「患者(利用者)への医療(介護)の提供に必要な利用目的」(Ⅳ3.(1)参照)と考えられるが、本人以外の者に病状説明を行う場合は、本人に対し、あらかじめ病状説明を行う家族等の対象者を確認し、同意を得ることが望ましい。この際、本人から申出がある場合には、治療の実施等に支障を生じない範囲において、現実に患者(利用者)の世話をしている親族及びこれに準ずる者を説明を行う対象に加えたり、説明を行う対象を家族の特定の人に限定するなどの取扱いとすることができる。

出典:医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス(太字筆者)

さらに、厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドラインガイドライン解説編」では、「家族等」とは、本人が信頼を寄せ、人生の最終段階の本人を支える存在で、法的な家族・親族だけでなく、親しい友人などより広い範囲のひとを含まれるもの、としています。

家族等とは、今後、単身世帯が増えることも想定し、本人が信頼を寄せ、人生の最終段階の本人を支える存在であるという趣旨ですから、法的な意味での親族関係のみを意味せず、より広い範囲の人(親しい友人等)を含みますし、複数人存在することも考えられます。

出典:人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン 解説編(太字筆者)

現場では書面による意思表示を重視

救急・医療機関や介護施設では、口頭や書面などによる意思表示で本人の同意を得ていると判断します。

そのため、最初に紹介した医療意思表示書をパートナーとともに作っておくことが大切であるといえるでしょう。

公正証書で作ったほうがいい?

公正証書とは、法律の専門家である公証人が作成する公文書です。証明力に優れていますが、第三者に対する法的拘束力はありません。

また、公正証書で作った場合は、それなりの金額がかかります。公証人に支払う手数料は13,000円~2万円くらいで、そのほかに、行政書士などの専門家に原案作成や手続サポートを依頼した場合は3万円~5万円程度の費用がかかります。

そのため、はじめは公正証書ではない「私文書」で作成し、必要に応じて公正証書で作成することをおすすめします。

法的書面の作成以外にできる対策は?

いきなり書面を作るのはちょっと・・・という方もおられるかもしれません。

そのような場合は、パートナーを緊急連絡先に指定した緊急連絡先カードを作り、お財布などに入れて常に携帯しておくとよいでしょう。

また、東京都内にお住まいの方は、東京都パートナーシップ宣誓制度の利用し、証明書をプリントアウトして、常時携帯したり、非常持ち出し袋に入れておくことをおすすめします。

パートナーが救急搬送されたときに、パートナーシップ証明書を提示すると、救急隊から搬送先に関する情報提供が受けられるようになります。また、証明書を提示することでパートナーと面会できる「東京都パートナーシップ宣誓制度受理証明書等が面会等の際に活用可能な病院」リストを公表しています。

東京以外の道府県にお住まいの方も、お住まいの自治体にパートナーシップ宣誓制度がある場合は、どのようなことができるようになるのかを、ぜひ確認してみてください。

まとめ

医療意思表示書は、同性カップルのどちらか一方の緊急搬送や入院に備えて、「○○さんに搬送先・病状・症状等を説明して欲しい」「○○さんとの面会を希望します」といった意思表示を記した書面です。

第三者に対する法的拘束力がないため、必ず希望どおりになるとは限りませんが、救急・医療・介護の関係者に「本人の意思」を伝えるための有効なツールとなります。

書面の作成について疑問や不安がありましたら、どんな小さなことでもお気軽にご相談ください。

最後までお読みいただきありがとうございました!^ ^