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まさかこんなことが起きるとは思っていなかった

 先週の金曜日の朝、いつもと変わらず販売用のパンを焼いていたわたしは、こんなことが起きるとは思っていなかった。

 それはメロンパンが焼き上がった時のことだった。いつもどおりオーブンから熱い天板を引き出し、こんがり焼けたメロンパンを取り出そうとしたその瞬間、メロンパンはみるみるしぼんでいき片っ端からひしゃげていったのだ。そして焼き上がったメロンパンのほとんどが手の尽くしようのないほどの無残な姿になってしまった。驚く間もなく、どうしよう、今日のお客様の予約いくつだっけ…と思いながら、かろうじて形をとどめたメロンパンの数を数える。9個。9個だけ生き残った。そして予約の数も9個。焼き直すにももう時間がないし、味はよかったので予約分は販売することにしたが、その日のメロンパンの店頭販売はあきらめた。


 落ち着いて原因を考えてみれば、どうやらメロンパンにのせるクッキー生地の配合を間違えたらしい。14年パン屋をやってきて初めてのことだった。

 そこには慣れた作業をこなしていく中で起きた慢心があった。反省はしたが、これは大切な気づきであり学びであったと納得し、同じことを繰り返さないよう心に誓った。ただメロンパンに使えなくなった残りのクッキー生地に罪はないので、今後の試作として早速アレンジを加え焼いてみた。

 ひとつは「おから&きなこ」もうひとつは「おから&ココア」。米粉を使ったのでグルテンフリー、高たんぱく、低脂質、食物繊維豊富でなかなかおいしいので、今後のヘルシーおやつの候補にしようと、いいように考える。昨年からの経験で立ち直りは早いのだ。


 実は1年前の春、わたしは大きな失敗と大きな学びをしたのだ。

 これほどネットの詐欺に気をつけてと情報が流れているというのに、いとも簡単にInstagramからの商品詐欺にあったのだ。軽い気持ちでInstagramの広告からサイトに入ってしまい、某有名メーカーのサンダルを注文してしまった。そして届いたのが明らかに安物の偽物サンダル。ネットでその業者を検索してみると「某有名メーカー・詐欺・悪徳業者」とすぐあがってきた。しまったと思ったが、代金引換の場合はもう打つ手がないらしく、結局諦めるしかなかった。しかも偽物サンダルには、某有名メーカーのロゴの代わりに堂々と [TAO MAYSI] と書いてあり、その下には小さく「thank you for your kindness」と入っていた。それはないだろう。タオメイシ。
 それから我が家ではこの偽物サンダル詐欺を「タオメイシ」と呼ぶこととなり、小さな失敗なら「タオメイシよりましだわ。」といって笑い飛ばしている。


 あの時、家族は振り込め詐欺でなくてよかったとか、大きな金額でなくてよかったと言ってくれて、わたしは申し訳なさと感謝が入り混じって半べそ状態だった。

 詐欺にあった人が言う言葉と同じように、まさか自分にこんなことが起きるとは思ってなかったし、自分の無能さや無知に落ち込んだが、起きてしまったことはどうすることもできなかった。さんざん落ち込んだ結果、失敗や、思いがけない出来事は自分にとって足りないものへの気づきであり、大切な学びだと思うようにした。

 それからも、いくつかの思いもよらない失敗はあるけど、くよくよ後悔せず立ち直りが早くなったのは良いことだと思う。今回のメロンパンの件のように。
 そして更には失敗に寛容になれたというか、自分だけでなく他の人の失敗も許せるようになった。みんな誰しも失敗することはあるし、そこから学べてよかったねと思えるようになった。そう、失敗しても人としては成長できるのだから、それはそれでよしとしよう。不揃いのおからクッキーをつまみながらまた思う。

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