15.天災に食べるもの

「だめか…」

関節を外す匠の彼でも、この牢屋を抜け出すことはできなかった。

「なぜ俺たちが囚人に…」
「言っても仕方がない。この国のしきたりならば、それに従わなければ」
「でもまさかこんなことで…」
「悪法も、また法だ」

私たちは海外の駐在員だが、この国はいささか常軌を逸しているところがある。

ジャガイモを信奉しているのだ。

なんでもゲルマン民族の大移動の時に、ことごとく死に絶えたジャガイモの中、生き残った唯一の種芋が、彼らの祖先の命を繋いだというのだ。

以来かの国では信仰の対象となっており、食べるなどもってのほか、国土の4割はジャガイモ畑になっていた。

食べもしないのに。

「まさか、国から持ってきたポテトチップスを食べていただけで投獄されるとは」
「信仰とは分からないものだな」

肥沃な土地を全てジャガイモ畑にしておきながら、残りの貧しい土地に人々が肩を寄せ合って生きているような国だった。

かの国の主食はもっぱら豆で、間違ってもジャガイモ畑で栽培してはいけないという。

「私たちの常識が息をしていませんね」
「俺たちが息をしているだけマシだ」
「しかし不思議ですね」
「それは?」
「なぜ食わんのでしょう?」
「…見当がつかんな」

かつてとうもろこしを燃料にしようと挑戦した国もあったが、やっぱり普通に食ったほうがいいか、となったんだったかな。

イワシの頭も信心まで、などというが、やはり私たちは、ジャガイモは、食い物だと思う。

牢番がやってきた。

「お前たち」

私は血相を変えている彼の様子に違和感を覚えた。

「お前たちの国では、巨大な雲が国を覆い、雨と風が襲うことがあるのだろう?」
「台風のことですか?」
「我らの食料が欠乏して、このままでは国民が窮乏してしまう」
「…我らの国ではあるものを備蓄食料にして難を凌ぎます」
「それは?」
「王に御目通りを許していただければ、レシピを伝授しますよ」

私たちが製粉メーカーの営業担当で本当に良かった。

かの国では、ジャガイモに粉をまぶして油で揚げる食い物が、国民の命を救った。

以来かの国のものは口を揃えてこう言った。

やっぱジャガイモは食い物だな、と。

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お題:強い牢屋 必須要素:じゃがいも 制限時間:15分  文字数:930字

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