8.赤い墓と黒い服
「俺が死んだら、あの店の看板のような赤い墓の下に埋めてくれ」
そう言い残して、お前は消えた。
生きているのやら、死んでいるのやら。
分からなくなって、早何年経とうとしているだろうか。
なぜ私がこの事を忘れていないかって、お前が指差したあの店が、よもやお前が消えてから三日で、連日閉店セールを行う土産物屋になるなどと思っていなかったからだ。
お前の指差した看板はすっかり取り外され、毎日が閉店セールの旗指物で賑わっている。
しかしお前は、なぜあの店の看板を指さしたんだ?
確かあの店は、シャッターが閉まって久しかった店で、今やなんの店だかも覚えていない。
確認しようと思ったら、土産物屋になっていたからだ。
お前は今どこで何をしているのだろうか。
私とお前は単なる商社の同僚で、親しくも仲が悪くもない間柄で、たまたま同じラーメン屋で豚骨ラーメンをすすったことがある程度なのに。
その帰り道、お前はおもむろにそう口走り、消えた。
分からないことが多すぎると、かえって記憶からこびりついて離れないものなのだ。
とにかく私はすっきりしたかった。
あいつが死んだのなら、できるだけあの赤を再現した墓を建てるべく、公園の片隅に場所は確保してある。
墓地?
親族の許可もなくそんなことができると思っているのか?
私とあいつの墓だよ。
その公園の片隅は、たまたまベンチで一息ついていた時に見つけた場所で、なんだかあいつが好きそうな気がしたからここに墓を建てようと思ったのさ。
ふとバーのテレビを観る者たちの歓声が気になり、私はそちらを向いた。
そういえばラグビーのオセアニア地区では、「ハカ」という民族舞踏があるとかないとか…
それが始まったところらしい。
その一人に私は釘付けになった。
あいつではないか?
いや、よく似たオセアニア人ではないのか?
…いや、あいつではないか?
おい、カメラ。
そいつを映すなら、隅のあいつを…
終わってしまった。
あいつがあいつではないかよく分からない男のオールブラックスのユニフォームはあまりピンとこなかった。
ただこの試合で一つ分かったのは、あの選手はあまり足が速くないということだけだった。
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お題:赤い墓 必須要素:豚骨ラーメン 制限時間:15分 文字数:940字
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