4.雷電
英霊、とはなんなのだ。
背後霊のようなものか?
それとも守護霊のようなものか?
勢いで書いた魔法陣からおもむろに出てきた力士に、真顔でそう問われた俺は、真顔で同じことを問い返したくなった。
「四股名は?」
「雷電」
やべえ、本物の角界の英霊呼べちまったよ。
そういえば、魔法陣のデザインが、土俵っぽいし、雷をイメージした模様が所々あったことに、今気がついた。
「雷電…さん?」
「雷電でいい」
「雷電」
「お前は?」
「…舞の海」
「随分と小兵だな。それで相撲がとれるのか?」
舐めるな、雷電。
俺はあいにく舞の海ではないが、技のデパートと呼ばれた舞の海を体軀だけで判断するな。
もしも俺が舞の海だったら、八双飛びうっちゃりでもかましてやれるのに。
「舞の海」
「なんだ雷電」
「俺をなぜ呼んだ?」
「…」
勢い余って書いた魔法陣から、雷電が出てくるなんて誰が思う?
しかし、それは呼んだ俺が責任を取らなくてはなるまい。
「…お前を両国に連れて行きたくてな」
「それは?」
「今の土俵のあるところさ」
「ほう」
雷電が興味深そうな顔をした。
「しかし、それは断ろう」
「なんでだよ?」
「俺はもう相撲をやめた」
「じゃあどうしてまわしをつけてるんだ?」
「お前は人生の大半履きつづけてきた下着を、今更変える気になれるか?」
「そういうことか」
合点のいく話だ。
俺も今からブリーフに戻ることは難しい。
「雷電は今は何をしてるんだ?」
「…お前と話をしている」
「…そういう意味じゃないよ」
「…お前次第だな」
「どういうことだ?」
「すでに死んだ私を、英霊として呼んだのはお前だ」
「確かに」
「ならば、俺のセカンドキャリアを構築してくれ」
「でも相撲は?」
「とらない」
「…じゃあ何ができるんだよ」
「…相撲」
「でも、相撲は?」
「とらない」
「帰っていいぞ」
「じゃあ帰してくれ」
「帰し方が分からん」
「長丁場になりそうだ」
「なぜ相撲をやめた?」
「強すぎて飽きた」
「そうか」
ラチがあかない会話を雷電としていると、豊かだか豊かじゃないんだか分からない。
「雷とか落とせないか?」
「弟弟子にはしょっちゅう落としていた」
「もっと天からさ」
「やってみよう」
「…」
「雷電!」
「…」
「…」
「ブレーカーが落ちたな」
「そんなもんさ」
無駄なひと時。
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お題:ラストは英霊 必須要素:力士 制限時間:15分 文字数:1001字
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