羽が無い人間と手が無いカラス
電線の上に、カラスがいる。
電線から、建物の屋根へ。屋根から、また電線へ。
カラス同士でおしゃべりしながら、
あっちへ、こっちへ飛んでいる。
僕たち人間には、羽が生えていない。
「空が飛べるなんて、すごいなあ」
そうやって、憧れることしかできない。
「そうかな?当たり前だと思ってたよ」
そう言って、カラスが一匹降りてきた。
「子供の頃から飛んでたし、そういうもんかと思ってた」
地面にやってきたカラスは、木の実をひとつ拾っていった。
そのまま、羽を広げて、電線の上へ。
…と、そこで木の実を落としてしまった。
「また降りるのも面倒だろう?ちょっと待ってな」
僕はそう言って、落ちてきた木の実を拾った。
そのまま、狙いを定めて、建物の屋根へ。
それを見たカラスは、電線から屋根へ。
「木の実を投げるなんて、すごいなあ」
カラスは、屋根の上でそう言った。
「そうかな?当たり前だと思ってたよ」
僕は、カラスを見上げてそう言った。
「子供の頃から投げてたし、そういうもんかと思ってた」
なんだ、羨ましいのはカラスも同じか。
僕は、カラスに手を振った。
カラスには、手が生えていない。
だから、手を振る代わりに一声鳴いた。
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