まだまだ知らないことばかり。

 今年で21になる。人生100年時代、まだまだ5分の1。知らないことがあって当然。
 母が曽祖母の遺産相続に必要であるとかなんとかで、戸籍謄本を取りに行った日のこと。実家でゴロゴロしていた私に慌てた様子の母から電話があった。

「おばあちゃんに2つ上のお兄ちゃんがいた。去年死んでる。」

 曽祖母が亡くなったのは5年ほど前。祖母に妹がいることは知っていた。曽祖母の葬式で会ったのが、最初で最後だけれど。聞くところによると、曽祖母と大叔母は家業の権利の問題で揉めたのち、実家を追い出され、実質勘当になった。親子としての縁も切れているため、相続権を放棄すると判を押している。結局うちの家業は、長女である祖母が継いだ。

 ここで私と母の間に生じた疑問は、彼への相続はどうなっているのかであった。本来等分されるべきだったのではないか。


 当時、植民地としていた満州に派遣され郵便局員をしていた曽祖父はそれは大層お金持ちだったようだ。本来なら満州孤児になるはずだった祖母を隠して連れて帰ってきたのだ。今はその頃を微塵も感じないほどの中流家庭である。

 満州に派遣される前に生まれた祖母の兄には、軽度の知的障害があった。頭は非常に良かったらしいが時は戦時中、今とは違い当時はそのことを隠す傾向があり、生まれて間もない祖母の兄は施設に預けられたという。その兄は私の伯父と顔がよく似ていたらしい。伯父を産んだ時にこの子にも障害があるのではないかと心配したそうだが、結果から言うと単なる神経質の延長程度であった。祖母の兄も今なら大したことのない、個性という言葉で片付けられるものだったのかもしれない。ただ、そのことは曽祖母と曽祖父、そして祖母だけの秘密になっていた。そのため、私の母ですら祖母に兄がいることを知らなかったのだ。

 第一発見者はアパートの管理人。詳しい状況はわからないが、おそらく孤独死だったのだろう。身元引受人は祖母。

 ちなみにうちの祖母はシングルマザー。母が産まれて間も無く、DVとパワハラに耐えかね離婚している。2人いた子供はそれぞれが1人ずつ引き取るかたちになった。そのため母は高校生になるまで兄の存在を知らなかった。母にとっては知らない家族が増えるのは2回目。それも意外と近い親族。
 実害のない不思議な家庭環境。うちの家系では珍しく私には両親がいる。知らない環境。親が片方しかいないってのも、家族にDVとかヒステリックがいるってのも。うちの中ですら、私が珍しい。これってすごい確率なんじゃないかと思う。
 父の日と母の日と間で、図らずも両親への感謝が芽生えた。

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