誰がための支援か?-後半 (ハケ子の深堀)

では、前半からの続きです。

消された世代・・・消された私・・・

落とされ続けたこの二十年間で、すっかり自信をなくした。国の支援はチャンスのようにも思えるが、正直、足がすくむ。

前半同様、東京新聞の記事から引用です。この気持ち、よくわかります。ものすごくわかる。ちょっとハケ子と飲み行かね?と言いたいくらいわかる。苦しむ人に軽々しく「わかる」なんて言ってはいけない事はわかっているが、このあたり読んでいるとハケ子も胃のあたりがキューっとしてくる・・・。

ずっと社会に出てから、ロスジェネ・・・消された世代として生きてきました。たまにマスコミが世論の前に引っ張り出して、ボコボコと叩く材料を提供し、マスコミや世論が飽きたらまた、掃き溜めに蹴飛ばされる。そんな時代がずっと続きました。それが、いまはこうして、私たちの背中を押してくれる。現状のつらさを伝えてくれる、記者や新聞社が出てきました。そして政府は支援すると言う。確かに、この流れ、政府の支援、チャンスだと思います。これをモノにせねばならない、今を逃したらもう人生は終わりだ、とすら思いつめ、気持ちは焦ります。でも同時に、この記事にある人のように足がすくみます。

打ち砕かれ続けた、否定され続けた人生を振り返り、行く先のわからない自分の将来に向き直ると・・・涙で自分の行く先がどこなのか見えなくなります。

誰がための支援か?

支援というのは、当事者が支援を受け、その効果を享受できてはじめて「支援」として生きてきます。就職氷河期世代支援はどうでしょうか。どれだけ優遇されれば気が済むんだ、という「ご意見」が記事になったこともありますが、他世代が羨むほどの、妬むほどの支援は今のところ行われていません。前半でも書いたように求人が潤沢にあるわけでも、選べる状態でもありません。

「まともな企業のまともな求人」には同世代のライバルが殺到します。2020年2月2日に政府施策の一環として行われた厚生労働省の就職氷河期世代採用試験、どうでしょうか。以下は、厚生労働省が発表している実施状況PDFから切り取ったものになります。

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(2020年3月4日現在/引用元URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000599576.pdf)

1次選考だけでも相当な倍率です。宝塚市の採用試験を始め、現在氷河期世代へ向けて門戸が開かれた「まともな求人」は政府の定義する支援に該当する者であっても、高倍率の競争を勝ち抜く必要があります。

政府の支援ですら、先に引用した記事にある「支援対象100万人」のうち、「正規雇用30万人から漏れた」、70万人は政府が認めた不安定な就労である非正規や諸般事情で仕事に就けないという立場に留め置かれるのです。支援とは言っても、【氷河期就活がもう一度自分の目の前で繰り広げられているだけ】です。それでも恵まれていて、優遇されていて、贅沢でしょうか。

その支援も、プログラムによっては今のところ、平日に仕事がなく窓口へ行ける人は恩恵を享受できますが、フルタイム就労者は受講したくても相談したくても、難しい状況です。非正規労働者だからといって、仕事を簡単には休めず、時には正社員を支えるために(産/育休代替や時短補助など)仕事をしている派遣社員もおり、簡単に休むことはできません。

こうして見てみると、はたして政府は、氷河期非正規のどこへ向けて支援を、誰のための支援を、行おうとしているのでしょうか。政府は、関係省庁は、当事者と向き合おうとしているでしょうか。社会や世間ではなく、当事者が納得でき、当事者が利用できる、当事者が活きる支援、を行おうとしているでしょうか。政府自身にとって見栄え良く、聞き映えのする支援を行っていないでしょうか。

ハケ子自身は、今回の就職氷河期世代支援の実施の方向性が出た事については、一定の評価はしてよいかと思います。狭き門をくぐり抜け、晴れて公務員へ正社員へ転身を遂げることができる人たちは、どうか大いに取り立てていただければと思うし、折角、政府が税金をつぎ込むわけですから、多少なりとも効果が無くては困ります。

しかしこの支援、政府は対象者100万人に対し、正規雇用目標値はたった30万人。今のままでは地獄にたらされた細い蜘蛛の糸を掴むことができず、政府目標から漏れた70万人は、セーフティーネットも無しに真っ赤に煮えたぎる血の池地獄へ真っ逆さまです。そこで再び、鬼(世間や社会)から自己責任の棒でガツガツ突かれるのです。70万人はその先どう生きればいいのでしょうか。誰がための支援か?だれもこの疑問には答えてくれません。

救うのなら・・・根こそぎ救え!

「これまで見放されてきた」という思いが強い当事者を救うのは、簡単ではない。

そらそうよ。あたいら、すんげーめんどくさいぜ?

我々氷河期非正規に対し、政府の支援は遅すぎました。社会や世間は叩きすぎました。自己責任というグローブはめて。みんなして寄ってたかって。そして、企業もわがままをやり過ぎました。誰一人、氷河期非正規ひとりひとりを見ようとしてこなかった結果が今です。簡単ではない、面倒くさい難しい状態へ追い込んだのはこの国と社会全体です。

時にはマスコミによって踊らされた愚かな若者とすら取り扱われてきました。ただひたすらに生きるために、この国が社会が世間が企業が必要とする必要悪とまで言われる非正規という立場でまじめに、地道に、仕事をし、生きてきただけです。そうであっても、自己責任と砕かれ続けた私たちの自尊心や自己肯定感は、簡単には戻りません。いまこうしている間も、働けば働くほど、心も職歴も傷つく氷河期非正規なのですから。救うというならここまで根こそぎ救ってくれ!

これから我々氷河期非正規に必要なのは、残りの人生を、どう自分の正気を保って生きていくかです。人生を取り戻すことではなく、どう残りの人生において新しく自己価値や肯定感を積み上げ、老いを受け入れ、どうひとりで老いて死んでいくか、を考えねばなりませんし、もう私たちはその準備期間に入っています。

結局は、非正規を正規へ突っ込めば話は終わりではないのです。それくらい、我々、氷河期世代の状況は複雑になっており、画一的な支援で再設計させ、それで済むという時期はとうに過ぎたのです。もう再設計すらできない状態です。必要な支援は雇用だけではなく、厚生労働省が管轄する分野においてすべての問題に対して、支援が必要であり、それは氷河期世代にだけ必要なものではないはずです。

政府は根こそぎ救う覚悟もなく、ただ単に老後二千万円問題から派生した氷河期世代が社会保障費を食い尽くす、ということにざわめく社会と世間に対してポーズをとったにしか過ぎない、のが今の段階で利用できる支援の実態です。政府は、希望の入っていないパンドラの箱を開けてしまったのではないか・・・そう思っています。

本当にすべきはなに?

今回就職氷河期世代支援というのは、この層が社会保障を食いつぶすんじゃないか、という社会や世間の恐怖から始まった、当事者の人生や生きてきたプロセスを無視する形で始まった支援です。その中でも氷河期非正規については、社会的な不安定さから生活保護受給者予備軍として世間の恐怖の的になったと感じています。

社会や世間の思惑や、様々な事情から、望まずとも不安定に甘んじねばならない非正規は、氷河期世代だけではありません。就職氷河期世代から下の世代は、昨今、売り手市場とはいえ全世代に非正規はいます。非正規労働者は不本意非正規労働者も含めて、全労働者の4割である、という話は知れ渡っています。ならば、非正規であってもフルタイムで働けば、この日本という国で安全に生きていけるようにすべきです。

政府や関係省庁、関係団体と企業/経営者が、やりたい放題して失墜させた、日本における非正規労働者の社会的地位と待遇を早急に回復させ、尚且つ、正規と非正規とを流動的に労働者の必要に応じて、行き来ができ、同時に労働者に安全である仕組みを構築することこそが、最優先課題ではないかと思うのです。できることなら、就職氷河期世代支援と両輪で行っていただきたい。

4月から就職氷河期世代支援が本格化するそうです。花の香りとあたたかな陽光・・・幸福の予感を感ずる、そんな希望に満ちた春の季節と同じように政府支援が希望ある、濃い影に追いやられている我々氷河期非正規を照らす、明日を将来を照らす明るい光であってほしいと思います。政府も、ここで失敗したら我々氷河期世代と同じく、おしまいです。それを忘れずに。

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