見出し画像

移動舞台のセノグラフィー

仮設舞台・桟敷席としての回廊・表現素材としての海 ”
嚴島神社を描いた絵画として最古の一遍上人絵伝*には1287年社参時の様子が描かれている。舞台を中心にした水上劇場空間回廊での観覧や伶人たちによる奏楽の様相がいきいきと描き込まれいる。
(*一遍上人絵伝については現在の社殿と配置が異なることもあり史的裏付けが求められる資料とされる。)
季節ごとに場所をかえ催行される神事の舞台そして、動線から桟敷へと転用される回廊空間。現在に連なる社殿の使われ方のソースイメージがそこには表現されている。
社殿を彩る様々な舞台①平舞台②高舞台③祓殿(舞殿)④能舞台(増築)⑤天神社(増築)⑥枡形
元々は仮設的に行われたものが徐々に月次化、式年化され、常設化された設備へと移り変わったものである。
門前町、境内、参道
回廊の延長として、定期的に市立てされ仮設回廊となる。

”空間(space)の場所(place)化”
イーフー・トゥアンは、
『Space and Place : The Perspective of Experience』の中で
「空間にはある場所から別の場所への運動が必要であり、
同様に、場所には場所となるべき空間が必要だ」
と述べている。
ここに起こる空間(Space)場所(Place)化
それは一つのinstallation
依代としての社殿では
そこに起こるあらゆる出来事神事化される
神事によって喚起される環境気色(けしき)化劇場化
この舞台装置主客をからめ取り、
空間の陰(ネガ)陽(ポジ)をかろやかに反転しながらplace(場)からfield(庭)へと我々の空間感覚を解放する。
周辺環境を含んだ大掛かりなセノグラフィー時間的移行(transition)の中でゆるやかに変容し、演者による再現の場(バ)は同時に一回性の庭(バ)のと共に場面展開される。

画像5


平舞台(仮設→常設)
回廊のレベルからは1段高く、周囲の風景を取り込み、回廊に見られる欄干などの障害物がない
水盤に浮かぶ筏(いかだ)のようなデッキを赤間石の束柱が支える浮遊感のある面の表現。

千僧供養の際に仮設で設置されたものが常設化されたものと言われる。
画像3

   筏状仮設的な設備としての面影を残す平舞台
高舞台(仮設→常設)
背景と一体化した平舞台のから一段上に置かれることで環境全体を差配するようなサラウンドな感覚が生まれる。
舞楽、閏6月の居管絃祭の際には管絃の舞台として用いられる。
幅17尺1寸、奥行き21尺。
舞楽舞台としては最小のもので。演者の存在感が増し舞がダイナミックに感じられる。

記録では原型形態は冶承元年(1177)ですが、それ以前は組み立て式であった考えられている。
元和9年(1628)にはじめて「高舞台」という記述が見られる。
元は平舞台の上に仮設で置かれていたものを、現在では平舞台とは関係なく海底から花崗岩の束石を立て常設化されている。


高舞台

祓殿(舞殿)
別名舞殿と呼ばれ雨天時の舞台
として利用される。
天井は黒塗りの格天井。床の長尺の1枚板は、水盤のように周囲を写し込み、音響を与える。

画像8



能舞台(増築)
1568年観世流の奉奏がおこなわれ、仮設舞台を起源とすると言われている。
1605年福島正則により造営
回廊の朱色に対して白木が用いられ、徐々に落ち着いた濃茶色に変化していく。また既存の回廊が丸柱であるのに対して角柱が用いられる。
リノベーション、増築作法としても興味深い。
舞台は回廊に対してセンタリングされ、回廊桟敷席の観客との間に挿入される絶妙な間、水盤と天井面使った演出。
たくみな前景の背景化と背景の前景化が行われる。
画像3


         能舞台を取り囲む桟敷としての回廊
天神社(増築)
1556年毛利隆元が寄進造営した建物。
江戸時代、陸地側の周辺地を作庭し、季節ごとに異なる景色を取り込みながら月次連歌が行われ連歌堂と呼ばれていた。

画像7


枡形
回廊の床のレベルと水面のレベルが同じになる大潮の満潮に合わせて行われる管絃祭のクライマックス。管絃の移動式の舞台である御座船が回廊すれすれで3回転する場所

隣接する摂社及び周辺部


千畳閣

山上から厳島神社を脇から俯瞰し、未完成で建具のない吹き放しの伽藍、
参上のランドマークの屋根の下を山風と海風が抜ける、木目が流れる床の光沢面に周辺木々の四季を写し込む色舞台。

画像5


三翁(山王)社 

10月23日三翁神社祭に舞楽が行われる。

画像9

弥山山頂
須弥山にちなんだ名称は仏教的な世界観の名残 
風化花崗岩の巨石(コアストーン)の隙間から瀬戸の島々を鳥瞰し、
神社を視界におさめる須弥壇


画像10


セノグラフィー(Scenography):
日本語訳は「舞台美術」
英語にすれば Scene+Graphic。
舞台面・場面・景色+視覚表現技法

画像4

管絃祭(海上の移動舞台)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?