オフィス改革に本腰を!

 日本のホワイトカラーの低い生産性が指摘されるようになって久しい。このままだと欧米との格差はさらに広がるだろう。とりわけ問題なのは「事務系」のホワイトカラーの生産性だ。

 IT化の後れや複雑な意思決定システム、ムダの多い仕事など低生産性の原因はいくつかあげられるが、彼らが働く物理的な環境、すなわちオフィスのレイアウトが「仕事の質」の面で足を引っぱっていることは間違いなさそうだ。

 日本企業(役所などの組織を含めて)のオフィスといえば、大部屋で仕切りがなく、上司と部下、同僚どうしが顔をつきあわせて仕事をする(最近はパソコンの画面が間に入るが)のが普通である。このような環境はいつでも会話ができ、互いに仕事の進捗状況を確認することができるというメリットがある。また先輩が後輩に教えるのにも便利だし、共同で事務作業をするのにも都合がよい。要するに狭義の「事務作業」をするのに適した環境なのだ。

 ところが、いまやこうした事務作業の多くはコンピュータやAIなどITシステムがこなす時代である。そして人間には創造性や思考力がいっそう求められるようになった。そうなると大部屋で仕切りのないオフィスはマイナス面が多い。

 たしかに日常的なコミュニケーションのなかからアイデアが生まれるケースはある。しかし、そこで生まれるアイデアは比較的小規模な、いわば「思いつき」レベルのものが大半であり、深い思考を要する独創的な仕事の成果は生まれにくい。

 思考を練ろうと思えばじっくり考え込むことが必要になるが、いまの職場環境ではおそらく5分間も考え事をすることができないはずだ。じっくりと思考をめぐらしていたら上司や先輩から、「なにボーとしているんだ」と注意される。逆に忙しそうに手や口を動かしていたら「よく頑張っている」とみてもらえる。そもそも周りから手元を覗かれていたら、気が散って仕事に集中できないものだ。

 また知的な仕事をするうえでは専門書や論文などからインプットすることも必要だが、衆人環視の職場ではそれもできない。

 ちなみに最近は、一部の会社で座席を特定しない「フリーアドレス制」を取り入れているが、そこでも衆人環視されていることに違いはない。

 私はこれまで20か国ほどで企業や役所などを訪ねて職場も見学したが、日本のようなオフィスは見かけない。たいていの職場は隣席と衝立で仕切られていて、個人の空間では足を投げ出して天井を見詰めながら考え事をしている人や、読書にふけっている人もいる。

 
 ただし「日本式のオフィスを取り入れている」といわれて見せてもらったことはある。すると、たしかに大部屋で机に仕切りがない。しかし隣の席とは2~3メートル離れていて、周りから手元を覗き込まれることはない。また隣との仕切りはないものの、全員が壁のほうを向き座っている職場もあった。

 いずれにしても他国の職場はプライベートな空間が確保され、仕事に集中できるようになっている。また適当に息抜きもでき、自分のペースで仕事をこなすことができる。会社は仕事をするための「場」を提供しているという感覚なのだろう。

 事務系ホワイトカラーといえども、狭義の事務をこなせばよいというのはもはや過去の話だ。さまざまな分野で専門性や知的能力の発揮が求められ、その水準が企業の生産性や競争の帰趨を左右するといっても過言ではない。

 オフィス環境の改善にはそれほど時間もコストもかからない。極端な話、顔を突き合わせて座る机の配置を逆転させ、窓や壁のほうに向けるなど、10分もあればできる。問題は、その重要性をどれだけ認識しているかだ。たかがオフィス、されどオフィスである。ホワイトカラーの生産性向上は、まず集中できるオフィスづくりから取りかかってもらいたい。

「個人」の視点から組織、社会などについて感じたことを記しています。