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派遣先のドドリアさんの話

私がドドリアさんと出会ったのは、
夫と籍を入れる半年前の、派遣先でのことだった。


そのころの私といえば、
社長の理不尽さに嫌気がさし、社長と大喧嘩し
こんなクソみたいなところで働けるかバーカ!と
転職先も確保せず前職を辞めるような
正真正銘のダメ人間であった。

後先を考えないにも程があるが
後先を考えず仕事を辞めるのは初めてではないし、
どうにかなるっしょ♪と脳内の私も言ってるし、
もうそろそろプロポーズされそうだし、
そんで妊娠したらそっこー辞められる仕事がいいし、
ということで次の仕事は派遣にした。

脳みそがゆるふわすぎる。
そのゆるふわ脳でよく生きて来れたなお前。
とツっこんでしまうほどだが、
幸いにもIllustratorとPhotoshopが使えたので、
わりとすぐ採用が決まった。

さて、ドドリアさんというのは
ドラゴンボールのあの人のことだ。

フリーザの側近のシュッとしてない方である。

実写化するなら彼女しかいないというほど、
彼女はドドリアさんに激似だった。
顔の造形およびフォルムまで。

初出勤の日、事務の彼女に色々説明してもらったが
「いくらなんでもドドリアさんに激似すぎるだろ」
という衝撃が脳内を占め、彼女の説明が何も頭に入って来なかった事を今でも覚えている。



私は新しい職場で働き始める時、まず最初に同僚の人間性と人間関係&パワーバランスの把握から始める。

仕事を覚えることも大事だが、
まずはそれが急務だ。

私は心根が優しい人と心根が腐った人間を
嗅ぎ分ける能力があると自負しているので、
一目で彼女の邪悪なオーラを感じ取った。

嗅ぎ分ける能力というか、
私自身が邪悪サイドなので
同族が分かるだけかもしれない。

彼女の物言いや言葉尻から
性根がねじ曲がっているのを感じたが、
ドドリアさんは所謂お局ポジションだったので
嫌われたら厄介だ。

特に私はおじウケは大変よろしいのだが、
おばウケに関しては好かれるか嫌われるか
100-0で評価が分かれるパクチーのような女なので
ドドリア対応は慎重にせねばならない。

ならば使うカードはひとつ、
[可愛げ]カードだ。これで勝負に出るしかない。
腰は低く、低く、ニコニコだ。


[可愛げ]カードはドドリアさんに有効だった。
私は彼女に可愛がられ、
その結果、単身赴任の部長の家でやる
お好み焼きパーティーに呼んでもらえたりもした。

はっきり言ってクソみたいな催しである。
何が楽しくて休日にドドリア及び職場のおっさん達とお好み焼きをせねばならないのだ。

まぁ一回くらいは顔出しとくかのノリで参加したが、ドドリア(バツイチ・成人済み子持ち)が好意を寄せている部長(既婚・キノコみたいなおっさん)とプライベートでお好み焼きをしたいがために企画した催しであることはすぐに分かった。

ドドリアとエリンギ似のおっさんのキャッキャしたやりとりはビジュアル的にもきつく、「じゃあまた月曜日〜!」と笑顔で別れた後、私は瞼をぴくぴくさせながら苦虫を噛み潰したような顔をして帰った。

このクソみたいな催しの最中、ドドリアが嫌いな妊娠中の同僚に対して「障害児が産まれればいいのに」という陰口を言い放った事を私は一生忘れない。

こんなに醜悪な人間がいるのかと思った。
醜悪なのはビジュアルだけにしておけ。


数ヶ月平穏な日々が続いた後、
ついにドドリアとの間に亀裂が走った。

その頃、
私は派遣にしてはデカい仕事を1人でこなし、
周りからむちゃくちゃ褒められていた。

昔から仕事に対しては完璧主義なので
終わりそうになければ少しだけ早く出勤したり
頼まれごとをして少しだけ残業したりしていたのだが
派遣としての勤務時間にはカウントせず
ただ働きにしていたので、
周囲は「派遣なのに…太っ腹…!」と
好意的に見てくれていた。

でかいクライアントの仕事の入稿が終わった日、
所長がキラキラした瞳をしながら
「ありがとう!部長達と美味しいランチ食べに行っておいで!おごるから」と提案してくれた。

(いや、ランチくらい1人がいいんすけど)
(ご褒美がおっさんとのランチて)
(金をよこせ金を。現金しか勝たんのじゃ)

と思いながらも、好意を無碍にはできない。

お言葉に甘えて部長達に豪華なランチを
ご馳走してもらった。


しかし困った。

食べ終わった後も
部長達のマシンガントークは終わりそうにない。

昼休みが終わる時間が近づいてきているなぁ…
そろそろ戻らなきゃいけないんだけどなぁ…

と時計を気にしつつ、
しかし上の立場の人々が自分のために設けてくれたランチの席、「時間なので戻ります」と切り出し1人で戻って良いものか…微妙である。

結局私は15分ほど昼休憩の時間をオーバーし、
部長達と一緒にオフィスに戻った。


オフィスのドアをあけると、
ドドリアが思いっきりこちらを、私を睨んでいる。

出汁をとりつくした後の鶏ガラのようなお局Bと
私の方を見てヒソヒソヒソヒソヒソ…

どうやらやっちまったようだ。
ドドリアの逆鱗に触れた。めんどくせ〜!!


入社当時とは違い、
社内でそこそこ人脈も築いていた私は
すでにドドリアに対してビクビクはしていなかったので
なんかキレてっけどまぁいっか。と思い仕事に戻った。

そのときである。

ドドリアがズンズンこちらの方へ歩いてきて
隣に座っている私の直属の上司に
私のタイムカードを叩きつけ、
「ごりさん、15分時間オーバーしてるので
勤務時間からちゃんと引いといてくださいね!!」
と言い放ったのである。

その言い方ときたら。

オフィスの時は止まり、空気がはりつめた。

…なるほど。もっともである。
彼女の主張は正しい。

これまで散々ただ働きしてきていても、
行きたくもねぇランチに付き合った結果としても、
15分オーバーは事実である。

(こいつパイプ椅子でぶん殴りてぇな〜)
と思う気持ちが湧き上がってきたが、
暴力はよくない。

ドドリアの剣幕に言い出しっぺの所長も部長も
ビビり上げてしまって我関せずの態度である。

男どもよ、なんて情けないんだ。裏切り者め。
誰か金属バットを持ってきてくれ。


ドドリア、派遣の分際で
チヤホヤされる女が気に食わなかったのだな。

しかしドドリア、
お前がそのつもりならこちらにも考えがある。

ドドリア、
お前の性格の悪さを戦闘力で表すと2万2千だろう。

だがな、私の性格の悪さの戦闘力を知っているか?

53万だ。

貴様を窮地に陥れるカードを私は持っている。

[しゅんとする]カード発動だ。


「あっ、、ごめんなさい」
「時間を過ぎてしまってすみません」
「すぐ修正します」

しゅんとしながら上司にそう言い、
ドドリアにも頭を下げた。

オフィスの空気は
(うわぁ〜、、ごりさん可哀想〜〜〜)に
一気に傾いた。ざまぁである。

脳内ではサザエさんが
「ざまぁでございま〜す♪」と勝利宣言している。

その日はずっと(パイプ椅子持ってきて〜)の気持ちだったが、つとめてしゅんとして、しかし健気に仕事はこなし、退勤した。

オフィスを出た瞬間、
Twitterの鍵垢にドドリアの悪口を書き殴り
すでに入籍済みだった夫にも愚痴り散らかした。

友人や夫が大笑いしてくれたので、
(パイプ椅子と金属バット持ってきて〜)
の気持ちは無事浄化された。


翌朝出勤すると、
ドドリアは何事もなかったかのように
「おはよ〜⭐︎」と挨拶してきた。

(語尾に⭐︎付けるのキツ)
と思いながらも、私も一応大人であるので
「おはようございます」とにこやかに対応した。

彼女は私に対して
挨拶だけではなく、やたら雑談を振ってきたり
お菓子を配ってきたり、露骨に態度を変えてきた。

さすがにドドリアも自分の劣勢に気付いたのだろう。
仲直りしましたよアピールを社内にしたいのだ。

自分から喧嘩をふっかけてきたにも関わらず
しょうもない女である。

[こうはなりたくない人間リスト]にドドリアという人間を追加し、妊娠を機にさっさと派遣を辞めた。


安定期に入り、のほほんと毎日を送っている時
1通のショートメールが届いた。

「○○(ドドリア)です。所長と揉めて退職しました。元気な赤ちゃん産ん」

という内容が通知として画面に表示された。

あの醜悪な陰口を知っているだけに
最後の一文は嫌味かとも邪推してしまう。

私はドドリアと連絡先を交換してない。
履歴書の電話番号から送ってきている時点で
悪質でキショい。


(うーん!胎教に悪い!)
と判断し、通知に表示された文章の続きは読まずに
ゴミ箱に捨てた。

グッバイ、ドドリア。
お前の言葉は受け取らない。


所長と喧嘩して辞めたの、超ウケる。


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