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「シン・エヴァ」は前代未聞のプロマネ術か?(2)「プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン」をPMP目線で読んでみた

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この記事ではPMBOK6版のプロセスと比較しています。PMBOK7版で学習されている方はPMIから出版されている「Process Groups: A Practice Guide」を合わせてご覧ください。

本書「プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン」によると、シン・エヴァ・プロジェクトは、プロジェクト目的が明確で、かつその目的を多くのステークホルダーとプロジェクトメンバーが共有できていました。成功プロジェクトのお手本のようなプロジェクトといえます。
PMBOK6版の統合マネジメントでは母体組織によるプロジェクト立ち上げ時の流れとして「スポンサーまたはプロジェクトマネージャが、立上げの関係者と連携して開発することができる」「この連携により、プロジェクトの目的や目標、期待されるベネフィットをより深く理解することができる」ことを良しとしています。この点においてシン・エヴァ・プロジェクトは正に実践しているといえます。


プロジェクト概要

PMBOKでは統合マネジメントの「プロジェクトの終結」プロセスのアウトプットにプロジェクト文書として「最終報告書」があります。ここには、プロジェクトの概要、スコープ目標、評価基準、完了基準が満たされているかどうかなどの情報が含まれます。本書の1章が「プロジェクト概要」で始まっているのは振り返り資料として正しいと思います。

本書にはシン・エヴァ・プロジェクトの目標として「『シン・エヴァ』という作品を完成させ、それによって『新劇場版』シリーズを完結させること」
と書かれています。
本書によるとシン・エヴァ・プロジェクトは、株式会社カラーが出資(=プロジェクトのスポンサーという扱い)かつ自社で制作する社内プロジェクトといえます。(もちろん、携わるスタッフの多くは外部リソースを調達しています)

シン・エヴァの総監督の庵野秀明氏は制作会社である株式会社カラーの代表取締役社長であり、会社としての意思決定者です。制作面でも「できる限り庵野の希望・要望に応える」という態度でプロジェクトに取り組み庵野氏とのコミュニケーションを積み重ね、求めているものを汲み取ろうとしたとの記述があるように、プロジェクトスタッフとしても意思決定者でした。

彼らのプロジェクト目標には、庵野氏個人と庵野氏に近い関係者の思いが強く込められています。かなり私的なプロジェクトという色合いが濃く見えますが、これを商業作品として世に送り出すという思いをステークホルダーもプロジェクトメンバーももっていたようです。

目標なのか目的なのか

作品として完結させることが目標というのは、それはそれでいいのですが、
プロジェクトマネジメント視点では、プロジェクトの目的という項目も欲しいところです。何を目指すかだけではなく、何のためにプロジェクトを実施するのかを明確に定義する方がいいです。
作品を完結させることで何かを成し遂げたいということを目的と考えられないでしょうか。こじつけかもしれませんが、本書の記述内容をざっと見て、おそらく庵野氏が思い描くプロジェクト目的はこの部分ではないでしょうか。

観客の皆様に、アニメーション映画の面白さと魅力と心地良さをエンターテイメントとして少しでも楽しみ、堪能して頂ければ幸いです。

『エヴァ』のようなニッチなところから始まったオリジナルロボットアニメ作品が100億円を達成するのは、アニメ業界にとっても良いことだと思う

完結させることはプロジェクトの目標であり目的でもあった

目標は「完結させること」であり、また公開後の興行収入100億円と解釈できます。また「完結させること」は目的のひとつでもありました。
ここまで読んでみて情報が不足しているところは他の章の記述を拾って補える部分もありそうです。
より深く読み解けばプロマネ術のヒントが見えるかもしれませんね。

続く第2章「プロジェクト実績」では、プロジェクト遂行結果について詳述されているはずなので、次回見ていきましょう。

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