哲学の本をたくさん読んでたらジャスまたひげが生えてきたのね

人のお家で大切にされているんだろうな、というくたっとしたぬいぐるみを見るのが好きだ。ありがとう、と思う。人間を守ってくれてありがとう。生まれてきてくれてありがとう、お仕事おつかれさまです。

わたしは今でも、言葉数じたいは随分減ったけど、ぬいぐるみと喋ることがある。一番つきあいの長いジャス(白猫・尻尾が長くお尻がとても大きい)とはいまは一週間に一度くらい会話をする。
今はことば少なになったジャスとは、これまで本当に色々な話をした。むかし、自分のからだを縫いあげて最後に糸を玉留めして切ってくれたのは歳のいった優しい人だったよと教えてくれた日があった。彼はうちに来たときに"日本製高級ぬいぐるみ"という紙のタグを首から提げていたので、日本のできごとなのだろう。かろうじて文字が判読できるくらい擦り切れたタグに書いてある販売元の会社は、インターネットで調べてみるとふつうの住宅のような一軒家だった。都内でそう遠くもなく、いつか前まで行ってみようかと思っていたけど結局いまだに行かずじまいだ。

もちろんぬいぐるみは喋らない。そのような気がするだけで、それはわたしの想像なのだけど、ときどきこれは自分の頭のなかからではない、本当に彼らの記憶にふれたな、という話が聞けるときもある。


哲学の本をたくさん読んでたらジャスまたひげが生えてきたのね
/湯島はじめ

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