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0008 綱渡りのイメージで生きる心の技法――白黒つけないバランスの取り方


自分は、複雑な物事を考えるときに、いつも頭の中でイメージを使っています。たとえば前回の記事では「ルーレット」をイメージにして、因果論と運否天賦の両方を同時に受け入れるヒントにしました。

今回は「綱渡り」を例にして、相反するものをうまく内面に抱えるための考え方を紹介したいと思います。

綱渡りのイメージ

綱渡りを想像すると、両腕を広げてバランスをとりながら綱の上を進む姿が思い浮かびますよね。その両手に秤を持ち、対立するようなものをそれぞれに載せて進む――これが白黒ハッキリさせずに生きるための大事なイメージです。

もし「白か黒か」をすぐ決めてしまったら、秤の片方だけに重りを載せた状態になってしまい、バランスを崩して落ちてしまう。だからこそ、綱を渡っていくにはどちらか一方に偏りすぎず、ちょうどいいバランスを取りながら一歩ずつ進むのが大切なんです。

「一歩ずつしか前に進めない」という感覚もポイントです。急いで結論を出さず、ゆっくり、確実に世界を理解していく。そのペース感こそが、自分の生き方にぴったりだと感じています。

もし単にバランスだけを表したいなら天秤でもいいのですが、「一歩ずつ進む」というイメージが欲しいので、綱渡りを採用しています。

綱渡りに必要な体力

綱渡りに例えると、自分の人生は一足飛びに進むわけではなく、少しずつしか景色は変わりません。

だから「もう白黒つけて綱から落ちたほうが楽だ」「パッと判断して走り回ったほうが、あっという間に景色が変わって面白いんじゃないか」という誘惑も出てきます。

相反するものを同時に抱えるのは、それだけ認知的に負荷がかかります。だから、ある程度の忍耐力がないと続かない。忙しいときや疲れているときは、つい白黒つけてラクになりたい気持ちが勝ってしまいます。

だから実際の綱渡りと同じように、相反するものを抱えるには忍耐力を鍛えたり、休息をとったりすることが欠かせません。

次に「利己的と利他的」という相反する概念を自分の中で両方抱えてみるなど、具体的なおもりを例にして、綱渡りのやり方について考えてみたいと思います。

綱渡りの練習方法

「利他は善」「利己は悪」といったイメージは世の中にあるかもしれません。でも、利他的な行動をして自分を犠牲にしすぎるのは本当にいいことなのか。あるいは、自分を守るために利己的になることはすべて悪いのか――そんな疑問がずっとありました。

これって「利他=善」「利己=悪」という白黒思考が生み出した違和感なんですね。そのことに気づいてからは、綱渡りのイメージで「利己」「利他」という2つの重りを秤に乗せ、どちらにも偏りすぎないよう気を配るようになりました。

たとえば、他人のためにばかり動いて自分をないがしろにしてしまったときは、ちゃんと自分をいたわる時間をつくる。反対に、自分のことばかり考えてるなと感じたときは、誰かのためにできることを考えて動く。

そのバランスのとり方こそが綱渡りの“体力”を鍛えてくれると実感しています。

ただやってみると、これが意外と難しい。忙しかったら自分のケアは後回しになりがちだし、疲れ果てていると人に優しくできない。だからこそ休むことも大事です。

最初から自分の内面のことでいきなり綱渡りを始めるのは、ハードルが高いと感じる人もいるかもしれません。

その場合は、たとえばニュースや噂話など、身近な情報を鵜呑みにせず「表に出ている情報」と「隠れているかもしれない情報」を考え、両方の秤に乗せる練習をしてみるといいと思います。

そうすると、ものごとを多面的に見ようとするクセがついて、綱渡りに必要な忍耐力も少しずつ伸びていきます。

白黒つけるということ

綱渡りのイメージを活用してまで拙速な白黒判断を避けたい理由は、白黒つけてしまうと、あとで苦しい思いをすることが多かったからです。

たとえば自分の内面について急いで「これが正解」と割り切ると、どうしても「切り捨てられた部分」が後になって自分を悩ませることがありました。

外の世界に対しても同じで、白黒はっきり決めてしまうと、その先入観や偏見が人や世界を狭く捉えてしまうリスクがあると思っています。

脳の処理を楽にするために割り切るのは自然なことだけど、人は徹底的に楽をしたがる生き物でもあるので、ある程度ブレーキをかけてあげないといけません。

特にゴシップ記事など、刺激的な情報だけで「そうなんだ!」と決めつけてしまうと、本当はまったく違う真実があったとしても、それに気づけないことがあります。それはちょっともったいないし、危ないことだと感じるのです。

本能との向き合い方 

「目の前の甘い果実を食べたくなるのは、生存の確率を上げる本能だ」という話を聞いたことがあるかもしれません。狩猟採集の時代ならそれは理にかないますが、現代のようにいつでも食べ物が手に入る状況では、同じ行動を続けると肥満や生活習慣病のリスクが高まります。

「甘いものがあったらすぐ食べたい」という本能は、現代ではデメリットのほうが大きくなります。だからこそ、お菓子を家に置かないなど、工夫して対策することで、本能のままに行動するのを抑える必要があるわけです。

それと同じように、「白黒をはっきりさせたい」という本能は、生き残るために役に立つ面もあるけれど、現代社会ではデメリットになることも多いんです。

だから、白黒決めすぎないための対策を意識してみると、より柔軟に世界を捉えられるようになると思っています。

今回紹介している綱渡りのイメージも、その対策のひとつ。相反するものを同時に抱えておくことで、どちらか一方に偏りすぎるリスクを減らせます。綱渡りは不安定に見えるけれど、一歩ずつ前に進みながら、しっかりバランスをとるイメージです。

劇的な変化ではなく、着実な前進

綱渡りというと、ずっと危ういところを歩いている感じがするかもしれません。これは不安定な人生を生きるということではありません。

むしろ、きちんとバランスを保ちながら確実に前へ進むこと。その一歩が小さくても、続けていればいつか景色は大きく変わっていくというイメージを表しています。

今の時代は世界の変化がとても激しいと感じます。だからこそ、「一瞬で世界を塗り替えよう」とするのではなく、自分の軸を磨きながら綱渡りで進むやり方が、これからの時代には大事になってくるのではないでしょうか。

まとめ

  • 綱渡りのイメージ

    • 相反する2つの考えや感情を、両手の秤に載せてバランスを取りながら前へ進む

  • 一歩ずつ進む大切さ

    • 急いで白黒決めずに、確実に理解を深めていくペース感が重要。

  • 綱渡りの体力

    • 相反するものを抱えるには認知負荷がかかるので、忍耐力や休息が必要。

  • 利己と利他の具体例

    • どちらも大切にしながらバランスを取る。忙しければ自分をケア、余裕があれば他人への思いやりを意識。

  • 白黒つける危険性

    • 内面で切り捨てた部分が後で苦しみを生むこともあるし、外の世界に対する偏見を強める恐れもある。

  • 本能との類似

    • 「甘いものを見たらすぐ食べる」本能が、現代ではマイナス面も大きいように、「白黒はっきりさせたい」気持ちもほどほどに対策が必要。

  • 劇的な変化より継続的な前進

    • 小さな一歩を積み重ねることで、長い目で見ると大きな変化をもたらす。

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一昌平
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