小説指南抄(17)伏線を張るということ

(2016年 02月 15日 「読書記録゛(どくしょきろぐ)」掲載)

伏線を張るということ

 小説に限らず物語を語る場合、ストーリーには何らかの伏線を張るものである。
 伏線とは、ストーリーの前半に提示した事や物や状況が、物語の後半やクライマックスで意味を持っていた事がわかり結末に影響するというもの。

 例えばこんな感じ。

 いつも腕時計にアラームを設定している主人公が、よくそのアラームを忘れて失敗してしまうエピソード。会社に遅刻して上司にこっぴどく怒られるのだが、原因は彼がなかなか腕時計の設定方法を覚えられないこと。そこで、恋人が腕時計を設定してくれて、「リセットできないようにしておいたね」と言う。
 物語のクライマックスで、殺人鬼から身を隠すシーン。読者には腕時計のアラームが鳴る時間がわかっていて、そのアラームが鳴ってしまうと殺人鬼に見つかるけど大丈夫かよ?っというサスペンスで引っ張る。
 アラームの音がして、そこに隠れているのかと、ほくそ笑む殺人鬼がクローゼットを開けると、そこにははずした腕時計があり、その隙に主人公は逃げる。

 このように最初から回収の方法を決めて張る伏線とは別に、特に意識せずに描写した状況や人や物が、物語の進行にあわせて意味を持ち「結果としてラストで伏線として回収」される事も多い。

 書きながら、ああ、この人物はこのために俺の脳裏に浮かんできたんだと気づく事も多い。むしろ、作品を書きながらこのような反応が起きる場合の方が面白い作品になる。
 この化学反応は、物語を「説明」ではなく「描写」で語ってくる方が起きやすいようだ。
 作家は、机やパソコンやノートに向かっている時以外も、日常のいつでも脳のどこかで作品について考え続けている。それが意識上に浮かんでくる瞬間が、いわゆる「降りてくる」とか「ゾーンに入る」瞬間なのだと思う。

(追記 2023/07/20)
「不死の宴 第一部終戦編」を書いているときのこと。物語に「女性キャラが少ないな」と感じて、第一章でとっさに描いた守矢みどりというキャラ。
 物語の進行につれ、同じ守矢の一族の男たちとの対比、姫巫女・美沙との対比など、重要な役割を帯びてきて、ラストシークエンスでは実に重要な役割を担った。このラストを書いているときに、「このシーンのために、お前は俺の脳に降りてきたんだな」と感じたのだった。

※この話の収録元「小説指南 増補版」はAmazonのKindleストアでお読みただけます。
Amazon.co.jp: 小説指南 eBook : 栗林 元, murbo: Kindleストア

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?