創作エッセイ(51)Kindleで初出版から10年

知名度の薄い作家・私が初めてAmazon Kindleで電子書籍を出版したのが2014年の2月8日だった。今年は10年目になる。今回は、そんな回想記。

入選はしたけれど

 初めて小説を書き始めてから9年目の三十二歳の春、初めて入選したのが第二回ビジネス・ストーリー大賞(テレビ東京・日本経済新聞)の佳作であった。「神様の立候補」という選挙広告をネタにした作品で、地方の広告代理店の日常をユーモアで描いたものだった。

 ただ、このコンテストはテレビドラマの原作募集ということもあり、形式は問わずとのことだが入選者の中で小説形式だったのは私だけで、後の方はシナリオだったようだ。
 そのため、映像化や出版化の権利は局が持っているため、この作品は映像化もされず出版もされなかったのである。
 名古屋圏で生活し、乳飲み子を抱えた私は、東京の出版社に営業に回ることもできず、再び公募に賭けたのだが、この三十二歳というタイミングで私は営業の課長になってしまった。奇しくもコミック・モーニングで「課長・島耕作」の連載が始まった年だった。
 私は、企業人としての生活を最重視して、いつしか数年に一本、短編を書く程度になってしまった。

退社と転職が契機になった

 出世を続けた島耕作が部長や取締役になる一方、私は小説が書けないストレスでメンタルをやられ、53歳で勤務先を退職した。その後、うつの治療を兼ねてバイク便の受託ライダー、寛解してからはメーカーのコールセンターで初期受信業務に就いた。
 ちょうどその頃、友人からKindleのダイレクト出版が個人に解禁されたことを聞かされた。彼も、インターネット文芸のコンテストで佳作に入っていて、その作品は島田雅彦から激賞されていた。
 この情報でまず頭に浮かんだのは、入選したものの出版していなかった作品だ。これを加筆して出そうと。

過去作品をリリース

 それまで個人WEBサイトでひっそりと公開していた作品群をリリースしていて嬉しかったのは、無名の私の作品が手に取られ、レビューがついていったことだ。
 また、その頃にはWEB上に無料投稿サイトが生まれ、若い書き手が次々に出てきたのだ。

WEB投稿サイトに飽き足らない時はkindleだ

 投稿サイトのPVやいいねの数に一喜一憂する書き手や、人気のスタイルにこだわって「書く内容すら読者に忖度」するような書き手を散見するが、まだ商業作家でないのなら、思い切り好きなこと書けばいいのになと思う。
 投稿サイトで人気がなければ、Kindleで出せばいいんだよ。私の書いている伝奇SFなんて、今や化石のようなジャンルだが、第一の読者(私)が、続きを読みたくて仕方ないのだから、「これでいいのだ」
 紙の本のように、部数の枷がない電子書籍は細く長く売れ続けてくれる。これはこれで、作家としてはうれしいものなのだ。

付記)
記事内で触れている私の入選作がこちら。
神様の立候補

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