ブックガイド(33)「キャラクター小説の作り方」

「キャラクター小説の作り方」(大塚英志)講談社現代新書

(2004年 05月 13日 「読書記録゛(どくしょきろぐ)」掲載)

 ティーン向けのいわゆる「キャラクター小説」の書き方を指南しつつ、エンターテイメント全般、ないしは物語についての論考を加えた文芸批評である。
「小説家志望者たちが小説家にうまくなれないのは、「私探し」と「小説を書く」という行為をうまく区別できないからのように思えます」
至言である。
 物語の舞台や登場人物をどう設定するか。オリジナリティ、「おもしろさ」とは何か。実に実践的な、みるみる書ける小説入門でもある。
 でも個人的には、親切に書きすぎるよ、というところ。
 ここに語られるような内容やアドバイスは、いずれも作品を創るという実践で、すぐに「体得」していくものであり、あえて教えてもらわなければならないほど、ストーリーテリングに難がある人は、もともと小説を書くということには向いていないのだ、と言い切ることもできるからだ。
 小説を書きたいと言いつつ、なかなか第一作が書き出せない人、その多くは、小説が書きたいということと、小説を書く人になりたいということの区別ができないからのように思える(ちょっと残酷か)。
 内容は下記目次を参考に。

目次

第1講 キャラクター小説とは何か
第2講 オリジナリティはないけれどちゃんと小説の中で動いてくれるキャラクターの作り方について
第3講 キャラクターとはパターンの組み合わせである
第4講 架空の「私」の作り方について
第5講 キャラクターは「壊れ易い人間」であり得るか
第6講 物語はたった一つの終わりに向かっていくわけではないことについて
第7講 テーブルトークRPGのように小説を作る、とはどういうことなのか
第8講 お話の法則を探せ
第9講 「世界観」とはズレた日常である
第10講 主題は「細部」に宿る
第11講 君たちは「戦争」をどう書くべきなのか
最終講 近代文学とはキャラクター小説であった

 単に創作のメソッドというだけでなく、マーケティングなどにもヒントになるようなことが多い本である。
キャラクター小説の作り方講談社現代新書

(2023/08/22 追記)
 大塚英志の評論に初めて接したのがこの書。まだWEB投稿サイトなどは少なく、この記事を書いた一か月前に「小説家になろう」が開設されているぐらい。
 当時、ずいぶん手厳しいことを書いているが、その後、サイタにて「小説指南」という小説創作のコーチングを始めて、初心者にぐっと優しくなった俺である(苦笑)
 初心者の四苦八苦を見ていると、昔の自分の試行錯誤を思い出せて、勉強になるのだ。
 「ここ、俺ならこう書くけどなあ」という説明で、「だって、こう書かないと~したのが、~なのか~なのか読者をまごつかせるだろう?」と話しながら、自分で「だから、俺はこう書いてたんだ」と再発見につながるのだ。

 無意識にやっていた小説上の文章作法を、改めて意識することは、「こつ」とか「加減」といった見えないものを可視化する作業でもあったのだ。
 私はサイタでやっていた「小説指南」の五年間で、改めて小説創作を見つめなおすことができた。そして、再び小説を書くことに戻ることができたのだった。
 生徒の皆さんに改めて感謝したい。


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