ブックガイド(48)「家康の選択」鈴木輝一郎

凡庸さが武器になった家康

 

 私の地元、小牧市が舞台で情景が目に浮かぶ感あり。決断力の信長・人心掌握と商才の秀吉という二人の鬼才に比べ、家康の才は戦のみ。そんな家康が、自分の凡庸さを認め、その上で全力を尽くしていこうとする気づきの瞬間をラストにした歴史時代小説だ。
 己の凡庸さにため息をつく家康の心情、会社員として組織の中で右往左往する私ら現代人と何ら変わるところがない。そこが作品の同時代性になっている。
 ただ、この家康は決して熱くならない。冷静だ。四十代の男だから当然だが、むしろ家族にとっては冷たいほど。作中、家康は常に自問自答するし、自分に突っ込んだりもする
 そこが面白く、同時に読者に彼の心情が伝わってくる。
 大河ドラマ「どうする家康」のおかげで、私の住んでいる愛知県を中心に家康ブームの真っ最中だが、おかげでこの作品に出合えた。
 ちなみに自宅から徒歩十分のところに、当時砦が築かれた小松寺がある。小牧・長久手の戦いの舞台のど真ん中に住んでいるのだ。
家康の選択 小牧・長久手 | 鈴木 輝一郎 |本 | 通販 | Amazon

(追記 2023/09/17)
本日、作者の鈴木輝一郎氏が、地元小牧市の図書館へ講演会に来訪。この作品に関するお話聞いてきた。
作中の家康の葛藤や選択など、現代のビジネスシーンもかくやという生々しさで伝わってくる。その視点は、経営者も兼業していた氏の体験からきているのだろう。
歴史時代小説は、歴史を通して現代を描いている。そんな気を新たにした講演だった。

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