創作エッセイ(83)戦闘シーンの書き方について(自分流だけど)

Xの、創作アカ界隈で戦闘描写の要不要が論じられていた。そこで、それにちゃっかり便乗しようとして書いた記事である(←こらこら)


例文で解説

まずは例文をお読みいただきたい。太字は補足説明。
例文)1 格闘系
 車のキーを付けたキーホルダーをくるくると回しながら、虎六はロビーのドアを開けて南玄関へ出た。玄関の外はロータリーになっている。かつては、ここが正面だったのだ。←最低限の場所情報
 ハイヤーや職員のマイカーが停まっていたであろうロータリーの端に、業務色の強いトラック・キャンターが停まっている。
 その運転席のドアに手を伸ばしかけて虎六は動きを止めた。
 石垣の雑木林を背にして人影がいた。全身黒装束の三人だ。目だけを開けた黒いフェイスマスクをかぶっている。そのうち一人は女だと虎六の嗅覚が告げている。←最低限の人物配置情報
「あんたたち、何?」
 虎六の問いを無視して、
「これから死ぬ人間に答える必要はない」と真ん中の男が言った。
 同時に左の男が跳躍し虎六に襲いかかった。その距離は常人ではありえない。だが、跳躍している間は加速も出来なければ軌道の変更も出来ない。
 虎六はひらりと身をかわして、着地前の男の背を押して加速した。男の体がロビーのドアにぶつかると強化ガラスの弾ける派手な音が響き、粉々になったガラス片が白い雹のように床に拡がった。←映画で言えばスローモーション
 虎六の表情に笑みが浮かぶ。←強かさを伝えるキャラ情報
「あんたたちまだひよっこね」
 ドアにぶつかった男は、強化ガラスの破片を体から払いながら立ち上がり、←強烈な映像イメージ
「こいつ、ライカン(人狼)だ」と言った。
(「不死の宴 第三部 冷戦編」より)

例文)2 銃撃系
 トラックの後ろを走っていた乗用車の助手席でシミズは湖畔沿いに停まっているトラック型の車両に気づいた。ヘッドライトを点灯している。
 「あれじゃないですか」
 そう指摘する間もなく前を走る車両が停車した。水野軍医少尉も車を止める。
 突然、「タンタン」という銃声がして前のトラックの車体から「カンカン」という弾着の音がした。
 シミズは慌て車から飛び出し、姿勢を低くしたまま道路脇の草むらに飛び込んだ。一瞬遅れて水野も隣に飛び込んできた。
 すぐに乗用車の方にも「カンッ」と弾が当たり始め、そのたびに車体が小刻みに揺れている。やがてボンネットから蒸気が噴き出した。ラジエータをやられたらしい。
 周囲を伺っても暗くてわからない。前のトラックがゆっくりと傾いた。タイヤを打ち抜かれて空気が抜けたのだ。
 トラックの荷台からバラバラと飛び出した兵たちが、素早く散開する。同時に照明弾が二発打ち上げられ発光した。
 白昼のような明かりに、白々と照らし出された路上に、一人の男が立ち、英国軍のステン短機関銃のような銃で、トラックのエンジンを掃射していた。道路の左右からは同様のサブマシンガンから二点射、三点射で兵たちが狙い撃たれている。三人、いや四人か。黒い軍服を着ているようだ。
 トラックから降りた兵たちはヘルメットの他に見たことのないボディアーマーを着用していた。日本軍には珍しいもので、短機関銃の拳銃弾を十分に防いでいるようだ。アーマーに弾着の度に埃が立つ。ヘルメットは火花が散っている。それをものともせずに、兵たちは素早く荷台から重機関銃を二機降ろすと、湖畔側の傾斜地に身を隠してそれを路上に据えた。重機それぞれ一台に二名の兵が就いて、黒衣の兵たちに射撃を始めた。

 この文章による戦闘シーン、ネットの「作家」さんたちが心配するように読みにくいですか? スピード感殺してますか?

戦闘シーンを上手く書くコツ

何を省略するか、何を詳細に語るかの匙加減
 詳細に語るということは、言葉を尽くしてごちゃごちゃ書くことではない。

 虎六の表情に笑みが浮かぶ。
「あんたたちまだひよっこね」

 これだけで、戦闘に慣れた強かな女戦士だと伝わる描写になっている。
巧い作家の作品を読む
 私は戦闘シーンや銃撃シーンなど、アクションシーンの描写に関して手本になった作家がいる。
 「マフィアへの挑戦」(死刑執行人シリーズ)ドン・ペンドルトン。
 「野獣死すべし」をはじめとする大藪春彦作品。その大藪氏に敬服していた平井和正「ウルフガイシリーズ」など。
 さらに剣戟ならば津本陽など。
 これらの作品は、手本にしようと思う以前に面白くて、「あの名場面をもう一度」とばかりに、何度も何度も読み返している。それが十代の自分の遺伝子に刻まれた感があるのだ。

戦闘描写の要不要は物語の要請による

 無理やり戦闘描写を入れる必要はないが、それを持ってくることで物語のテンションが一気に上がるようなとき、スピード感や読みやすさのためにそれを我慢する必要はない。
 巧ければ、何をやってもいいのだ。
引用元の作品は以下


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