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まえばし心の旅028:さちの池

幼稚園の頃の遠足の写真を見ていると、おかしなことに気づく。一日の遠足なのに、写真によって私の服装が違うのだ。その遠足の行き先は、前橋公園のさちの池。その頃のさちの池には、ちょっとした水路が注いでおり、その水路を渡る飛び石があった。私の微かな記憶と、当時の目撃証言を総合すると、私はどうやら、飛び石を渡っている時に、水路に落っこちた様なのだ。まあ、私がそんなドジをすることを見越して、母が着替えを準備していたので、びしょ濡れの洋服から、予備の服に着替えることができたのだ。そんな事件があったので、写真の服装違いという怪奇現象が発生したのだ。いろいろな人と話をしていると、さちの池に落っこちた人はけっこう多い。「前橋のこどもあるある」なんだろう。

さちの池、近くにいると、その形はわからない。でも、群馬県庁に上がると、くっきりとした群馬県の形になっている姿がよくわかる。そして、だいたい前橋市のあたりだろうか、中央付近に鶴がすらっと立った噴水がある。私の様な子供を飲み込んだ昔のさちの池は、もうちょっと曲線でできた、まるっとした群馬県の形をしていたが、真ん中の噴水は、変わらない。

前橋公園は明治38年に建設され、先代のまるっとしたさちの池は、昭和34年、現在の上皇陛下と上皇后陛下のご成婚を記念して建設された。私が子供の頃はそれから20年ほど経っていたわけだが、今と比べると、だいぶ木がもわっと植えられていた記憶がある。

特に、池の周りにはたくさんの桜が植えられていて、花見のメッカだった。柳原放水路や、利根川沿いの道の桜並木、段を上がった東照宮の隣の広場やそこにあったステージなど、花見のシーズンには、多くの人で賑わった。橋の下の、池を見渡せるところには、大きな客席を備えた仮設のお店がでーんと立ち、池の周りにも多くの露天が並び、椅子とテーブルが並ぶ一角もあった。そんなところで、よく友人と花見をしたが、まあ、花より団子で、露天で買った食べ物をつまみにして、ビールを飲んだりした。その時に出会った隣のグループにいた奴とは、今でも付き合いがある。同じ場所で、子供の頃は、水路に落ちて水を浴びたが、大人になったら、ビールを浴びた。

平成20年の都市緑化フェアに向けてさちの池が改修され、今の様にきっちりとした群馬県の形になった。形はとても綺麗になり、周りが広々とした。明るく、健康的なエリアになったが、花見で酒を飲んでいると、ちょっと場違いというか、罪悪感を感じることもある。天気の良い昼間、家族連れがレジャーシートを敷いてゆっくりしたり、ちょっと体を動かしたりしている姿を見ると、ほのぼのした平和な気分になる。でも、木がもっさりと生えていて、ちょっと暗い場所もあった、あのまるっとした幸の池が懐かしい。今のきっちりとしたさちの池は、まだ10年ちょっと。もう少し年月がたてば、木も成長してくるのかな。

臨江閣からその前の庭、そして東照宮やその南側の広場、さらに利根川沿いのたまに水に沈み「浸水」する「親水公園」。そのちょうど真ん中にさちの池があり、市民の憩いの場となっている。今度、ゆっくりとその一帯を歩いてみようかな。

令和3年10月27日

音声データもお楽しみ下さい。


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