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映画『ハケンアニメ』

 映画『ハケンアニメ』の最も優れた点は、テレビのアニメーション作品について、これまで専門家の間でも必ずしも明らかにされてこなかった、開発、生産、販売、消費のプロセスを、あたかも企業調査者が企業の調査記録を作成するかのように、具体的に描写して見せていることである。 
 それによって、アニメの監督であるクリエーターの抱える葛藤や情熱が、彼らを制作サイドで支えるプロデューサーの作家や作品に対する立場やアプローチ方法が、アニメという商品によって生み出される巨額の利益を獲得しようとする大企業としての二つのテレビ局の間の競争構造が、リアリティを持って観客に迫ってくることが可能になっている。
 その意味で、この作品は、単なるアニメ好きのための映画ではなく、現代の巨大ビジネスとしてのアニメ産業の実態を知ろうとするものにとってもまた格好の材料を提供していると言える。ただし、この作品の「ハケン」とは、「派遣」の意味ではなくて「覇権」の意味であるから、私のようにアニメ産業における派遣社員の物語だと思ってこの作品を観ると、肩透かしに合うかもしれない。
 また、役者の演技という観点から見ても、新人作家役の吉岡里帆、伝説の作家役の中村倫也、吉岡のプロデューサー役の柄本佑、中村のプロデューサー役の尾野真千子、それぞれの役者のいずれもが、その役柄をよく理解した演技によって、作品のリアリティを支えている。
 アニメファンのみならず、アニメというコンテンツを商品とする産業研究に関心がある人にとってもお勧め秀作です。

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