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#38 スタバで外国人と腕相撲をした話

夏の暑い日

50人弱の人数で服部緑地でバーベキューをした後、四ツ橋のスタバに移動。

暑くて喉がカラカラだったので 
普段は飲まない味、サイズの
ゆずシトラスティー、グランデを注文。
店内は空いている席がなかったのでテラスで作業を始める。

私の趣味は動画を作ること。
今日も、ついさっきのバーベキューで撮った写真や動画を繋げて編集をし、好きな音楽またはその雰囲気にふさわしい音楽をBGMにして一つの動画を作り、
LINEのオープンチャットで動画を共有してメンバーと一緒に余韻に浸る。


この一連の流れが私にとっての楽しみなのだ。




1.偶然の出会い


スタバのテラスでパソコンを開き、ああでもないこうでもないと頭を捻りながら動画を作っている時に

隣のテーブルから声が聞こえた。

「オニイサン!」

ゆっくりと横を見ると、外国人がコチラをみている。
2人組いるうちの1人が声をかけてきた。
みた感じどちらも40代中盤くらいに見える。

私「はい?」

外国人男性「強そうな腕してるね!何かスポーツやってたの?」

私「野球をやってましたけど…」

男性「おお、じゃあ僕と腕相撲しませんか?」

いや、なんでやねん
いきなり何を言い出すんだと思った。

そして、男性はこう続けた。

「あなたが勝てばボクが君に飲み物を奢るよ。
でもボクが勝てばあなたがボクたち2人にチーズケーキを奢る。
これでどうかな?」


なんだよ、その提案





めちゃめちゃ面白そうやんけ!
上等だやってやんよ!


私はパソコンを閉じ、隣のテーブルに移動した。


男性の手を握った瞬間、これは勝てないなと思った。
指、手のひらの厚みが私と比べ物にならないくらいに大きく、太いのだ。


もう1人の男性がレフェリー的な立ち位置になり、スタートの合図をした。

私は本気で潰しに行こうと思って100%以上の力を出した。
相手は、余裕の表情で手の位置をキープし続けていた。

その間、相手にもレフェリーにも言葉を投げかけられた。

「もっと本気出してよ」

「サムライパワー見せてよ」

「ジャパニーズパワー見せてよ」



私は力を振り絞るが、一向に手は傾かない。

対戦相手に話しかけられた。
「何歳ですか?」

私は「26!」と力みながら返す。

その後、対戦相手はこう言った。


オレ、60過ぎてるよ。」


「え?」



そう驚いた時には私の手の甲がテーブルに沈んでいた。

勝ち負けなんてどうでも良かった。


2.ハジメには神様がついているよ


飲み干したゆずシトラスティーのグラスを返却口に片付けてレジに並ぶ。

注文したのはニューヨークチーズケーキ2つと、
アイスのキャラメルマキアート。合計1500円。

私はなんだか打ち解けた気がして
「買ってきたよ〜」なんて言いながら2人が待つテーブルに運んだ。

その後、1つのテーブルに3人で並んで座った。

私は気になったことから次々と質問していった。
「どこの国の出身ですか?」
「日本に来て何年目ですか?」
「485円のチーズケーキがイタリアでは何円ですか?」

もっとまともな質問あるだろ。と後々になって思ったが
外国人と話す機会が新鮮すぎてそんなことなど考えていなかった。

2人はイタリア出身のジオとジガ-ニ

レフェリーがジオ。43歳
腕相撲の相手はジガーニ。60歳。
(年相応に見えないので本当かどうかわからない)

ジオがジガー二を指差しながら私に質問した。

「この人がなんでこんなにも若く見えるかわかる?」

「運動しているから?」と私。

「スパゲティ食べながら女の子と×××してるからだよ」

は?

「その後はワインを飲みながら〜」

など、ここには書けないような下ネタを連発していた。

日の暮れていない夕方5時のスタバのテラス席で、3人で爆笑した。

3人で話している間も
ジガーニは通る人に次々と話しかけていた。

19歳の男性2人組や、筋肉マッチョな40代くらいの人に
「オニイサン!強そうな腕してるね!腕相撲しようよ!」

と当たり前のように言っていた。
みんな断っていたが。

体の大きい外国人2人が日本人の若造を挟むように座ってるんだから
断る気持ちもわかる。


私も2人に自己紹介した。

「ハジメ!面白い名前だね!なんでそんな名前なの?」とジオが言ってくれた。


下ネタ話と自己紹介がひと段落したところで、ジガーニが突然表情を変えて私に言った。


「ハジメなら幸せな人生を送れるよ。夢だって全部叶えられるよ。
ハジメには神様がついてるよ。オレにはわかる。その目を見れば。」


とても嬉しかった。その目は嘘偽りなく感じた。

さっきまでイタリア版高田純次にしか見えなかったジガーニが
一気に人格者に見えてきた。

私はこう返した。
「ジガーニさんはもう夢は全部叶えたんですか?」

「もちろん。」

ジオとジガーニ
2人の共通点は、面白くてユーモアがあって人生を前向きに楽しんでいる。

こんな人になりたいと思った。

3.何かを始めるのに早いも遅いもない

テラス席の端っこに同年代くらいの女の子2人組がドリンクを持って席についた。

その瞬間、ジガーニセンサーが動き出した。

「ハーイ!チャオ!こっちにおいでよ!」と手を振りながら手招きした。

2人のうちの1人がコチラに手を振り返し、相席が成立した。
すげえ、外国人マジックすげえ。

私は感心するばかりだった。

一つのテーブルを5人で囲んだ。

女の子2人組の片方はSさん、もう片方はKさん。
高校の同級生で、この後祭りに行くらしい。

Sさんは二児のシングルマザーで夜職をしている。
来年から看護学校に行くらしい。(すごい)

Kさんは事務の仕事をしている。

2人とも私より年下で、オシャレだった。

女子が相席してからも
ジガーニワールドは止まらない。

ジガーニはKさんと握手をした後、当たり前のように手の甲にキスをした。
Kさんは驚きを通り越して笑っていた。

外国人マジックすげえ、日本人なら間違いなくセクハラだ。

そしてジガーニはこう続ける。
「ハジメもやりなよ!」と

流石にキスはまずいので
Kさんと握手だけした。ノリがいい人で助かった。


その後、ジオとSさんが話を始め、
ジガーニとKさんが話し始めた。
間にいる私はどちらかの会話に相槌をうつ。5人組あるあるだね。


いつしかジオとSさんの話題に集中する。
Sさんは若くして2人の子供を授かり、シングルマザーとして働き、
2人を大学に行かせるために看護師の資格を取ろうとしている。
頭が上がらない。

Sさんは雰囲気や立ち振る舞いを見れば男の大体のスペックや性格がわかるらしい。(すごいよね)

ジオは「もう君は早くに40年分くらいの経験をしているね。素晴らしいことだ。」と言った。

Sさんはこう返す。
「でもいろいろ早すぎたなと思う。」と

すると真面目な表情でジオが言った。

「50歳で結婚して家庭を持つ人だっている。
60歳になって起業してチャレンジする人もいる。
20歳で子供を3人授かって家庭を持つ人もいる。
人はみんなそれぞれの時間で生きている。
だから何かを始めるのに早いも遅いも関係ないよ。」


彼の目の周りの彫りの深さや、眼差し、話し方から
人としての厚みのようなものを感じた。


私はジオの横顔を見つめながらただただ感心していた。


ジガーニが女子2人に話を振る。
「オレたち男3人のそれぞれの印象はどう?」

合コンでよくあるような質問だが、不思議と薄っぺらい質問には感じなかった。

Sさんはジオに対して
「人間としての器が大きそう。」と言った。

ジオは「器が大きいってどういう意味?」と返した。

彼は日本語がとても上手だが
日本語ならではの独特な表現はまだ難しいみたいだ。

Sさんは
「ちょっとのことでは怒らなさそう。」と補足した。

それに対してジオはこう言った。

「僕は怒ったりしないね。
怒ることは負けることだと思っているから。
小さいことにも大きいことにも怒ったりしない。」

シンプルな答え
しかし本質だなと思った。


時刻はもう18時半
まだ外は明るかった。


できれば夜になっても5人でいろんな話がしたかった。



4.『大きく変わる』と書いて『大変』

ここ最近、たくさんの変化が重なっていた。

  • 去年亡くなったおばあちゃんの一回忌

  • 今の職場を辞める(いい職場だからこそ悩みまくった)

  • 栄養士という肩書を半ば捨てるという決断

  • 実績も経験もなく、人に仕事を教える立場をしたことがなく、これといった武器もないまま転職活動をしていることによる不安と焦り

  • 失恋

友達や、自分がメンターとしている人などに何度も相談した。

周りの人たちには感謝してもしきれない。

私はこれからもたくさんの人の価値観に触れながら
自分の弱さを理解してちゃんと受け入れ、
生きていかなければならない。


ジオ、ジガーニ、Sさん、Kさんたちと別れた後
電車でさっきの会話の内容を反芻していた。
私はいてもたってもいられなくなって、
「家に着いたら走ろう。」と心に決めた。

このまま家に帰って寝るのはもったいない。
このまま朝を迎えたらまたこれまで通りの1日が始まってしまう。と思った。

バーベキューして動画を作って寝る。それだけで今日は充実していた。
それに加えて偶然と偶然が重なり、忘れられない1日になった。


もし、バーベキューの後にそのまま家に帰っていたら
すぐに疲れて寝ていただろう
もし、緑地公園駅のマクドナルドに席が空いていたら
私はそこで動画を作っていただろう。

もし、四ツ橋のスタバの店内に席が空いていたら
もしジガーニからの腕相撲を引き受けずに店を後にしていたら
こんなことは起こらなかった。


人生はワクワクすることがたくさんある!と実感できた。


家から長居公園まで走る。家の前では祭りが行われていた。
人混みをかき分けて
Googleマップを起動することもなく
ペース配分を気にすることもなく
慣れない走り方で息を切らせる。

小雨が降ってきたのも息が上がってしんどいのも気にならなかった。
人と会うことで私の心が動き、体も動いた。

イヤホンからは
Mrs.GREEN APPLEの「ライラック」が流れていた。
ラストサビの前の

”不完全な思いも いかんせん大事にしたくて

不安だらけの日々でも 愛してみる

感じたことのない クソみたいな敗北感も

どれもこれもが僕を突き動かしてる”


この歌詞が流れた時、涙が溢れてきた。

自分は本当の意味で強くならないといけないという焦りなのか
ようやく自分と本気で向き合えていることを実感した喜びなのか
ジオ、ジガーニの2人のようになりたいと思えて、心が動いた先に涙が出たのか


3人で、そのあとは5人で話して
電車の中でここ最近に起こった変化の数々を思い出して、照らし合わせて
このままじゃダメだと走りながら
ライラックを聞いて、涙した。

その涙は悔し涙というよりも、充実感を得ている涙に近かった。

私は今、大きく変えようとしている。
自分も、人生も

この先の人生がイージーなわけがない。
でも幸せな人生を生きることを諦めるつもりはない。

5.いつか、また5人で


ジオ、ジガーニ
本当にありがとう。

あなたたちのおかげで新しく貴重な価値観に触れることができ、
Sさん、Kさんと楽しく話す事もできた。

ジオとジガーニと連絡先を交換すればよかったかなと思ったけど
これでよかったと思っている。

2人は毎日のように日本人と話しているだろうし腕相撲しているだろうから
数日経てば私と話したことなど忘れているだろう。

だから次に会うときは自分がもっと成長していなければならない思った。


おばあちゃんがいなくなって、人はいつか必ず死ぬことを改めて実感した。

転職を決めたことで、自分が今後どうなりたいかを考えるきっかけになった。

失恋したことで、今の自分の弱さと真剣に向き合うようになった。



どの経験も、今の私にとって必要なことだ。



だから
次にジオとジガーニと会うときは

私がもっと人間として強くなったときだ。

例えば
今よりも少しは筋肉をつけて腕相撲が強くなっていたほうがいいし
イタリア語が少しは話せるくらいになっていたほうがいい。



そして2人と再会した時に
笑顔でこう言ってやる。



『ジガーニ、腕相撲しようぜ!』



いつかまた四ツ橋のスタバで
5人でいろんな話をしたい


ジオ、ジガーニと再び会うまで

私は死ねない。


いつか2人に届きますように。