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八ヶ岳アイス訓練

年始一発目の山行は、八ヶ岳でアイスクライミグを楽しむことになった。もともとの予定では黄蓮谷右俣に挑戦する計画だったが、Hさんの経験値を上げる必要性が出てきたのと、大晦日に降った雪で雪崩のリスクが高まっていたため、予定を変更し、八ヶ岳のアイスクライミングの入門ルートでリードとロープワークの練習をしましょうという計画に落ち着いたのだった。

重たいテント泊装備を担いで、またしても赤岳山荘の駐車場を出発する。今シーズン、八ヶ岳を訪れるのはこれで4回目。うち1回は舟山十字路に車を駐めたが、残りの3回はいずれも赤岳山荘から赤岳鉱泉をめざす行程だ。何度も同じルートを歩いていると、通勤路ばりに通い慣れてきた。

ただ、前回とは明らかに違う点がひとつだけあった。見るからに積雪が増えている。この前来たときは雪のかけらもなかったのに、いまはすっかり雪景色。黄蓮谷に行かなくてよかったな。

途中の凍結箇所にも雪が積もっていて、すっかり歩きやすくなった登山道をたどり、初日は峰ノ松目沢を登ることにした。

準備をしてF1に到着すると、すでに4人パーティが取り付いていた。安全を期して、ここは先行パーティが全員登り切ったのを見届けてから登攀を開始する。先行はもちろんHさん。F1は傾斜が緩く難しくないので、ロープなしでも大丈夫ということで、各々がフリーで突破した。

続くF2には、先の4人パーティに加えて、2人組の男性パーティにも出くわした。いちばん簡単な左端のラインは、すでに4人パーティが登り始めており、そのすぐ右隣の優しそうなラインは、男性パーティが登るという。

ということは、我々に残されたラインは、いちばん右端の細い氷柱を登るルートだけとなる。Hさんは自信がなさそうなので、ここは私がリードする。年末に赤岳鉱泉のアイスキャンディーで登り込んだおかげか、腕をさほどパンプさせずに安定して登ることができた。自分の成長を感じることができてちょっと嬉しい。

Hさんをフォローして、さらに沢の奥へと進むと、いくつか凍った滝が出てきたが、もはやどれが何番目の滝なのか数えきれない。

いくつか小さな滝を越えた先で、半円形にカーブを描く壁にツララの集合体が隙間なくぶら下がる場所に到着した。と、ここで時刻が14時を回ったので、タイムアップ。懸垂下降で来た道を戻る。

赤岳鉱泉に張ったテントの中で過ごす夜、翌日は4時に起きるため、20時過ぎには早々に就寝。Hさんの自家製鶏つみれ鍋を食べて癒された身を、エアマットに横たえて床に伏した。

八ヶ岳山行2日目。今日は裏同心ルンゼを登る。思っていたよりも人数は少なかったが、貸し切りとはいかず、ほかのパーティと抜きつ抜かれつを繰り返しながらの登攀となった。

本日もリードはHさんに任せる。ただ、やはりまだまだ練習が足りないようで、スクリューを打つのが遅かったり、アックステンションに手間取ったり、改善点が散見された。

それでも最後まですべての滝をリードで登り切ったHさんは偉い。この経験は必ず次に生きてくるはずだ。

大同心の基部を右上しながらトラバースし、下山ルートは大同心稜にとった。

無事、赤岳鉱泉に到着したとき、時刻はすっかりお昼を過ぎていた。登りながら食べ物をほとんど口にしていなかったので、嬉々として山小屋の軽食を注文する。

暖かい山小屋の中で、私はキーマカレーを頬張り、Hさんは味噌ラーメンを啜りながら、明日の予定を話し合った。予報では今晩から天気が崩れるらしいが、明日の日中には回復してくるらしい。

微妙な天気に判断が煮え切らない。もう一泊して様子を見るか、悪天候をなるべく避けて、今日中に下山してしまうか。

小屋の中で話し合い、それでも結論は出ず、テントに戻って、同じくどうするか話し合い、結局、この場所に泊まるのが飽きたという理由で、下山することに決めた。今シーズンだけで、赤岳鉱泉のテント場には、すでに3泊もお世話になっている。小屋の軽食も食べ尽くしたし、お酒も大概は味見した。

ということで、荷物をまとめて登山道を下り、最後は美濃戸口にあるレストラン、J&Nで美味しい食事を愉しんでから帰路に着いた。

あとから聞いた話だと、我々が下山した翌日は、悪天候のため撤退を余儀なくされたパーティがいたらしい。彼らにとっては残念であるが、我々にとっては朗報である。無理してもう一泊せず、下山して正解だった。自らの判断が正しかったことの裏付けを得られて、悪いと思いながらも、心の底でほくそ笑んだ。

2024年1月6日〜7日

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