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Sugar Town(333字)

子供はみんな空を飛べる。いつのまにか飛べなくなる。私は子供心を失わなかった。二児の母となった今でも飛べる。将来の夢はお花屋さん。ケーキ屋さん。お姫様。息子と娘はもう飛べない。私と話が通じない。というより私の言葉はもはや誰にも届かない。大きな声で叫んでみても、何かに阻まれて砕け散る。だけど私は飛べるのだ。ふわふわ浮かんで町を散策。いい匂いのするパン屋さん。角を曲がるとお洋服屋さん。路地裏にある雑貨屋さん。ずっと昔から変わらない。ずっと昔から出られない。甘い風の吹く牢獄。大人になってしまったら、夢はひとつずつ消えてゆく。空に浮かぶと、懐かしい人たちが私に気づく。保育園で遊んだあの子。私をきつく叱った先生。何度も読んだ本のヒロイン。みんなの驚いた顔を見るのが好き。


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