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僕が行方不明 (555字)

咳をしたら二人になったので驚いた。もう一人の僕は僕とまるで違う。人当たりが良く、安請け合いをせず、誰からも慕われ、いつも笑顔で、背筋がぴんと伸びていて、バランスの良い食事を心がけ、良い時間帯に点を取り、何度も引退し、一度も引退していないと言い張り、高速で飛行し、低温で湯煎され、朝顔をよく観察し、ひまわりを必ず踏み潰し、鉄球を振り回し、信じられないほど振り回し、すべてを破壊し尽くしたのち、ごくごく簡単な謝罪をする。しかも大地主で、牢名主で、大司祭で、美少女で、化け猫だというからたちが悪い。身長は2㎝だったり194㎝だったりする。現在行方不明。僕は毎日彼女に手紙を書いて、宛名もなしに投函している。僕は病を患っている。咳ばかりしている。咳をしても一人。どんなに咳をしても。胸が苦しい。溺れてるみたいだ。いつも手紙を書いている。たぶん許しを請うている。本当に素晴らしい文章というのは、難解な言葉を使った、読みづらく、理解しにくいものである。なのに僕は気を抜くと「例のあのプールできみの裸が見てみたい」などと書いている。淫らな夢ばかり見ている。病室を抜け出す夢ばかり見ている。咳が止まらない。憎悪が止まらない。愛が止まらない。Winkが鳴り止まない。どこに出せば届くのかわからないまま、今日も手紙を書いています。





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