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7歳の騎士 (777字)

最初に失踪したのは私だ。7歳の夏のことだった。7歳の私にしかできないやり方だった。7歳でない者に私を見つけることなどできるはずもなかった。

私の見事な消失を契機に失踪の連鎖が始まる。7歳児ばかりが消えてゆく。次々に失踪する。7歳の純粋な意思によって。流星みたいに美しい尾を引いて。どことも知れぬ場所に落ちてゆく。
6歳の子供もいずれは7歳になる。すると自然に失踪を覚えてしまう。是非もなく失踪してしまう。8歳児はそのまま大人になる。間抜けな顔で老いてゆく。6歳と8歳のあいだにある断絶。それが私たち7歳だ。私たちは6歳と8歳を無慈悲に分断している。世界の果ての崖みたいに。6歳児は何も知らない。8歳児も何も知らない。すべての年齢の中で、もっとも混じり気のない夢を見るのが7歳児なのだ。

長い時間をかけて世界は老人ばかりになる。老人は自分より少しでも年若い者を幼児として扱う習性を持っている。誰もが祖父母で誰もが孫になってしまう。だがその孫たちも続々と死んでゆく。病によって。老衰によって。悪意によって。老人の上に老人が折り重なる。祖父母も孫も老人だから、屍体には少しの違いもない。そんな喜劇をどこからか私たちは見つめている。

そしてすっかり誰もいなくなったあとで、ようやく帰還する。
7歳の姿のままで。
「邪魔者は消えた」
「願いを叶えよう」
「だが我々の夢はそれぞれ反目しあっている」
「仕方がない」
「それが7歳というものだ」
「きっと美しい国になるだろう」
「けがれのない国になるだろう」
「恐ろしい国になるだろう」
「ひどい国になるだろう」
「すぐに滅んでしまうだろう」
「どうすれば良いだろう」
「形を変えるな」私はすべての7歳児を一喝する。「自分を保て。夢見たままでいろ。適応するな。干渉するな。周りのことなど一顧だにするな。滅びることを恐れるな。私たちは誇り高き7歳なのだ






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