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カラス考

カラスは犬猫以上に頭がいいらしい。
毎週定期的に道端に出される白っぽいビニールに入った食材を彼ら彼女らはどう思っているのか。
ネットにくるまっていたりして食べにくいが、あれは人間が自分たちに置いてくれる餌だと見なしているのだとしたら、つついているときに追い払われるのはどういうことかと訝しむはずである。おかしいではないか。くれたのに邪魔する。いったいどういう了見か。君ら人間は精神的に分裂してやしまいか。
いや、知的な種族であるカラスはわかっている。人間にとって不要なもので、つまりはゴミで、定期的に道端に置き、別の誰かのトラックがとりにきて焼却炉で燃やす。そのためにはなるべく収集の労力を減らしたいから、散らかしてもらっては困る。我々がそれをつついて引き出して道を汚すと迷惑なのだ、だから追い払われるのだ、と。と?ホントか?ほんとうにそこまで理解するだろうか。
おそらく、ゴミ収集の人たちはとんでもなく大食いで、彼らに受け渡す大事な食糧とみなしている、というのがカラスの認識なのだろう。それなら、こちらはおかしなやつら、とはならないわけだが、それにしては食糧をゾンザイに扱い機械で潰してしまい、追って行ってみると巨大な炉に放り込んで燃やしている。それを食べる気配はない。やはりカラスは我々を頭のおかしな動物と考えているかもしれない。
わたしの家は2階がキッチンリビングで、ゴミを置いておくためだけの小さいベランダがあるのだが、カラスは以前、大胆にもそれをつつきに来ていた。
いつだかの朝、ゴミ置き場にプラゴミを出しに行った時に、いつものように我が物顔でつつき放題にしているので、持っていたゴミ袋を投げつけた。プラスチックはわりとキレイにして捨てるので、たとえ破れても修復に面倒はないだろうと咄嗟に考えてのことだ。もちろんそんなゆっくりなものではかすりもせず、カラスはゆうゆうと飛びたち、憎らしいことに目と鼻の先の電柱にとまり、頭を捻ってこちらを見下ろした。そして、カァカァと仲間に何かを伝えた。矛盾した行動をする変なやつが来たぞとでも、伝えたのだろうか。
それからまもなくして、私がベランダのサッシを開けてゴミを床に置いていたときに、何かの視線を感じるので見上げてみると、隣家のバルコニーの欄干に立ってじっとこちらを見ているカラスがいた。クチバシを横に向けて私のことを片目で凝視している。目が合ったとこちらが思うやいなや、そのカラスは飛び立った。
それからというもの、ベランダのゴミ袋に彼らは手をつけなくなった。おそらく、こういうことだ。いつだかゴミ袋を、いや食糧を投げつけてきた精神的におかしいやつの家なのだと認識し、仲間内で共有したからにちがいない。
カラスたちは、家と家族構成とそれぞれが出すゴミ(食糧)の特徴を知っているとさえ思える。油や脂っぽいものをそのまま捨てる家の袋をきっと知っている。
これはこれからの観察と攻防によってレポートすることにしよう。





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