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IPPONグランプリと大型MCバトル大会のマンネリ化について

突然だが、IPPONグランプリを毎回見ているようなお笑いファンなら、実はみんなこう思っているのではないだろうか。バカリズムや千原ジュニアはもう出なくてもいい、もっといろんな芸人に光を当ててほしい、と。まあ、コアなお笑いファンであればむしろ彼らのような大物の大喜利を見られる貴重な機会として楽しんでいるのかもしれないが、単純な番組ファンである私がなぜそう思うかというと、彼らがあの番組を大会として考えたときの出場者としてあまりに強すぎるからである。
日本で一番多くの視聴者がいるであろう大喜利大会ことIPPONグランプリには、毎回10人の芸人が出場するが、バカリズムと千原ジュニアはほぼ毎回その枠のうちの二つを占めている。彼らの大喜利の実力が圧倒的なのは間違いないし、彼らのような常連組が出演するからこそこの番組を見るという人も多いのだろう。だから番組として毎回4~5人程度の常連組を呼ばざるをえないのは理解できる。この枠に数えられるのはホリケンや秋山、最近だと川島、大悟あたりだろうか。
しかし、たまにしか出られない芸人が彼らのような常連に並んで良い勝負をするというのはなかなか困難である。なにしろ、常に複数の回答をストックしつつ早押しボタンを連打するのが常識という舞台に適応したうえで、芸歴も長い大喜利強者たちを上回らなければいけないのだ。その結果として、実際に歴代の優勝者や準優勝者のほとんどは彼ら常連組となっている。
こうした主張にはいくつかの反論が飛んでくるだろう。例えば、大喜利が強いやつが勝ち残るのは当然だ、というもの。あるいは、実際に常連組を乗り越えて優勝している芸人もいるのだし、そうしたニューヒーローが出てきたときこそ面白いのだ、というもの。後者に関しては、確かにホリケン・秋山・川島・大悟といった面々も、常連組を倒して優勝することで自らも常連となった経緯があるので、納得できる。
ただ正直、一視聴者としてはもう、バカリズムや千原ジュニアの大喜利を見ても全然ワクワクしないのである。これがIPPONグランプリではなく、単発の大喜利番組であれば彼らの大喜利だって大いに楽しめる。だが、IPPONグランプリでバカリズムが優勢になっても、ああまたか、としか思えないのだ。バカリズムの大喜利が点数をとることは当然なので、彼を応援する視点で大会を楽しむことができない。この現象がIPPONグランプリという番組自体のマンネリ化を引き起こしている。
 
ところで、これとほぼ同じ現象がMCバトルの大型大会でも起こっている。ここ数年の戦極MC BATTLEや凱旋MC BATTLEでベスト4以上を争っているのは、呂布カルマ、MU-TON、SAM、mol53といった常連組ばかりなのだ。この常連組にはDOTAMAやS-kaineなどを加えても良いかもしれないが、まあそれは置いておこう。とにかく、もはや呂布カルマ対MU-TONという対戦カードには何のワクワクも覚えない。彼らのフリースタイルは恐ろしいほどの完成度であるにもかかわらず、だ。いやむしろ、彼らのバトルの技術がすばらしいからこそ、実績もスキルも並びえない他のMCが割って入る余地がないのが、今の大型MCバトル大会の状況である。
もちろん、大会側もこの状況に手をこまねいているばかりではなく、例えばレゲエの大物を呼んできたり、レジェンドMCや元アイドルを出場させたりとイベントごとに目先を変えてはいる。だが、そんなゲスト陣がバトル巧者たちに勝てるわけはなく、結局ベスト4以上に残るのはいつもの面子になってしまうのだ。こうして大型MCバトル大会のマンネリ化は極まり、ZEEBRAやR-指定を持ち出さないと話題を作れなくなっている。
じゃあ、呂布カルマやMU-TONを出場させなければいいのか?というと、そういうわけにもいかないだろう。観客の感想は、今回の戦極は層が薄いとか、実力者のいないところで優勝したMCに価値なんてない、といったものに落ち着くのが目に見えているからだ。常連組を呼ばなければ、大会の箔はつかないし、呼んだらマンネリ化が加速する。そんなジレンマが発生している。
とはいえ、私にはマンネリ化しているように感じられても、これらの大会のお客さんは増え続けているように見えるから、あまり問題ないのかもしれない。先日大阪で開催された戦極28章の観客も初めてバトルイベントに来た人ばかりだったようだから(本当か知らんけど)新規のバトルファンはおそらく増加している。このままだと私のようにバトルから離れるヘッズが増えてしまうのでは、という心配も杞憂にすぎないのだろう。そもそもMCバトルなんて本来はアングラなカルチャーだったのだし、仮に大型大会が成立しなくなっても……云々。
 
まあそれは置いておいて、バトルイベントの中でもあまりマンネリ化していない大会が一つある。UMB(ULTIMATE MC BATTLE)だ。現在の大型大会の中では最も古い2005年から開催されており、全国の予選を勝ち抜いてきたMCたちが年末の決勝大会で争う、「今年の日本一のMCを決める」という位置づけの大会である。地方の予選を勝ち抜かなければ出場できないため、ふだん東京のシーンでは見ないMCも多く登場するのが、マンネリ化しにくい一つの要因かもしれない。実際、彼ら地方勢が地元の代表として日本一の座をかけて争う様子こそがUMBの見どころである。
だがそれ以上に、実は常連組のMCたちが自主的にUMBを「卒業」しているのが、マンネリ化を起こさずに済んでいる大きな要因なのではないだろうか。普段のUMBには招待枠がないため、客寄せのために大会側が有名バトラーをブッキングするということもない。一方で、UMBは無名のMCが新たに名を上げる場という認識がなんとなくあるらしく、一度優勝したDOTAMAやMU-TON、Authorityらは予選にも出場せず、自主的に「卒業」している。呂布カルマのようにすでに十分なプロップスを獲得したMCも同様だ。そのため、UMBではフレッシュなMCが上位に残ることも珍しくなく、今夜日本一になって人生を変えてやるという面々の熱いぶつかり合いを見ることができる。
考えてみれば、あらゆる大会のマンネリ化を防ぐうえで、活動年数による出場制限や「殿堂入り」制度を設けることが有効なのは当たり前である。MCバトルでいえば、今でも毎回面白い大会といえるのが戦極のU-22 MCBATTLEだ。年齢制限があるおかげで、ベテランMCと当たったときにバカにされがちな若手がのびのびと活躍できるのが見ていて楽しいし、新鮮でスキルのあるMCがたくさん登場するのも面白い。Luvitのようなニューカマーが優勝した回も、Fuma no KTRがついに悲願の優勝を果たした回も、良い大会だったと感じられた。今や戦極の本選よりもよほどワクワク感がある大会だと思っている。高校野球だって、毎年のように同じ強豪校が出場していても、活躍する選手が変わっていくからこそプロ野球とは違った面白さがあるのだろう(たぶん)。IPPONグランプリも、どこかで殿堂入り制度を設けるなりしていれば、もっと番組としての寿命を延ばすことができたかもしれない。
そういえば、IPPONグランプリは別の特番枠で女性芸人のみの大会を実施したことがあった。そのときは出場者の中でもハリセンボン箕輪はるかが圧倒的に強く、勝負にならない展開が生まれてしまっていた。これは他の出場者と芸歴に差があったせいもあるかもしれないが、お笑いの賞レースでいえばTHE Wも女性芸人だけの大会にした結果、最終決戦に残る面々くらいしか見どころがなく、他は正直見るに堪えない番組になっていると感じる。賞金額やプロモーションで盛り上げようとしているのはわかるが、番組自体の盛り上がりが今一つなままだと、優勝者をスター扱いするのにも無理があるだろう。お笑いの場合はまだ「女性限定」を差別化に使うのは、イベント自体の面白さを確保するのが難しいのかもしれない。MCバトルに関してもこの点は同様と思われる。これは単にプレイヤーの母数が違いすぎるためだと思っているのだが、この議論は別の機会に譲ろう。
 
本当はUMB2022と戦極28章の感想を書こうと思っていたのに、全然別の話で記事がまとまってしまった。感想の方はあらためて箇条書き程度にまとめるかもしれない。とにかく、大喜利が面白い若手芸人がもっと評価される機会があれば良かったのにな、という気持ちで書きました。グランジの五明とか。

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