ドン博士(その2)

前回、「きれいのくに」のエッセイの中で「ドン博士」について書いたところ、予想以上の反響があったので(うそつけ!)、ドン博士の続きを書いてみようと思う。

ひとつは、食糧危機の話。
連載当時は、食糧難が心配されていた時代である。
ドン博士は、食糧難問題を解決すべく、またまた新発明をする。

ドン博士が発明したのは、小さな錠剤。
これ一粒に、人間が一ヶ月活動するのに必要十分な栄養素が全て含まれている。
錠剤は毎月政府から各家庭に郵送される。
これで食糧難問題は解決である。
ところが。。

「体力もりもり! でも、お腹がペコペコ!」
「腹減った~!」
「イライライラ!!」

栄養は足りても、空腹感が解消できず、みんなイライラ。体力は有り余っているのでそこかしこでケンカを始める。
そこですかさず、博士の第2の発明の出番。

当時流行っていた「アメリカンクラッカー」のような、ひもの付いた小さなボール。
このボールの部分に濃縮された味が付いていて、これを口から飲み込むと、味が楽しめる上に、胃袋に入れば満腹感が得られるというもの。
ひもの端を口にくわえておけば、ひもでボールを引っ張り出し、再利用できる。(おえっ!)

さまざまな味のボールがあり、大食いの人は、一度にたくさん飲み込んで楽しむ。
「ボクは幸せだな~♪」
口から10本ぐらいひもの端を出しながら、芝生に寝転がって喜ぶ善良な市民。

そして、ドン博士のラボでは?
もちろん、誰も買わなくなった最高級ステーキを独り占めして、美味しそうに食べているのであった。
「わはははは!」
頭に角。

もうひとつの話は、もっと酷い。
ドン博士は、何やらドクロのマークのついたフラスコで怪しげな液体を合成している。
「できた! これを蒸発させて大気中にばら撒けば。。」
無色透明の気体がばら撒かれるが、別に何も起こらない。

「だが、半年経つと。。」
なんと、この気体は太陽の紫外線に当たって変化し、徐々に有害な物質に変わる。
人々が異常に気付いた時には既に遅い。
バタバタと倒れていく、善良な市民。

「そこで、ワシの発明したこのマスクの登場だ。
これさえあれば、安全。
マスク本体、1個10万円。
カートリッジが1個5万円。
カートリッジは1個で1年間使用可能。
5個付ければ5年、10個付ければ10年持つよ~」

「おれ、5年分買う!」
「はい、マスクとカートリッジ5個で35万円ね♪」
「ボクはお金が無いから、とりあえず1年分。。」
「はい、15万円♪」

当たり前だが、博士のマスクは売れに売れた。

全ての国民がマスクを着けて街中を歩く、異様な光景。
カートリッジを1個だけ付けて、うなだれて歩く若者。
まるでゾウの鼻のようにカートリッジを10個ぶら下げた、恰幅のいいスーツ姿のおじさん。。

助手のケンケン(もどき)が博士を見て心配する。
「博士、博士のマスクはカートリッジが1個しか付いてませんよ! 売り切れる前に自分の分をもっと取っておかないと!」

「な~に、あの毒ガスは1年で無害化するようにできているのだよ。わはははは!。。」

もちろん、頭に角。

何十年も前に描かれた作品だが、今思い出すと、何か引っかかる。

いや、とても、引っかかる。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?