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句集を読む:『無音の火』

『無音の火』 大河原真青 2021現代俳句協会 全342句
著者は昭和25年郡山市生まれ。「桔槹(きっこう)」、「小熊座」同人。

[章立て]
Ⅰ 波の音 2014年以前
Ⅱ 鰓の痕 2015年
Ⅲ 日の雫 2016年
Ⅳ 月の暈 2017年
Ⅴ 架空の町 2018年
Ⅵ 花の奈落 2019年

東日本大震災発生は2011年、この句集の第Ⅰ章は2014年以前の句で、被災直後の句はあまり収録されていないことになる。句集全体を通じても「ふくしま」もしくは福島県内の具体的な地名が使われている句が極めて少ない。だが、句集の大半は震災後の福島を詠んだ句である。あとがきによれば、震災の句はしばらく作れないと思っていたものの、俳句雑誌に「フクシマ忌」の文字が散見されるようになって強烈な違和感を覚え、福島の震災句は福島の俳人が詠まなければならないと強く思ったとのこと。
蘖やフクシマ忌とは云はすまい
著者の意思表明と解釈できる一句。カタカナ書きの「フクシマ」が登場するのはこの句のみ。この句の他には「フクイチ」という表現を使った句が一句あるだけだ。

[好きな句12句]
国道を鉄扉が鎖す花の雨
死者阿形生者吽形桃の花
薄氷をすこし動かし夜汽車過ぐ
蛍の夜おのが未来に泣く赤子
風葬の原発建屋初景色
国捨つる覚悟はあらず夏の霧
田も民も棄てつくされて葛の花
熟れ柿や医師の消えたる診療所
春水満たす五臓六腑に原子炉に
糸とんぼ高台移転といふ疎開
冬ざるる河口の供花も靴音も
潮枯れの松こそ墓標あたたかし

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