視聴者投稿創作怪談『もみじ雪』

これは、私の怪談を扱う配信に、視聴者の方より投稿されたお話です。





これは、私が日本を離れ、ある国に滞在していた時のことです。
当時私は、「ある街」でクローンの研究をしていました。その街に名前はありません。なぜなら、今は立ち入り禁止区域に指定されてしまったから。その国ではたまにある話です。
その街では、時折変わった雪が降っていました。雪に色がついているんです。手の指を思いっきりそらしてみてください。掌に白っぽい部分ができると思います。それに近い色が、雪についていると思ってください。その雪は「もみじ雪」なんて呼ばれていました。こんな雪が降り積もるので、当然街も肌色に染まります。はじめてこの光景を見たときは不気味に感じました。
それと同時に、街ではこんな噂が流れていました。「もみじ雪には素手で触るな、呪われる」と。当初私は、そんな雪ひとつに大袈裟な、と思っていました。それを抜きにしてもあまりに不気味なので、私は自然ともみじ雪には触らないように行動するようになりました。
そんなある日、実験結果をまとめようと資料室に行くと、同僚の研究員がなにかに怯えたような顔で座り込んでいました。どうしたのか尋ねると、彼は「もみじ雪が髪にかかっちまった、俺はもうおしまいだ」というのです。私は「呪いなんてただの噂でしょ?そんなに怯えなくても…」となだめようとしたのですが、「噂じゃない、あれは触れた者の記憶を、人格を消す雪なんだ」とますます怯えてしまいます。
「何があったのか、言える範囲でいいから教えてほしい」、と私が聞くと、彼は怯えながらぽつぽつと語り始めました。

その日、街にはもみじ雪が降っていました。彼は後輩の研究員と、「記憶を操作する方法」について、お互いの考察を語りながら雪の中を歩いていたそうです。その時、彼はコートに手袋、帽子までかぶって顔だけが露出した状態、後輩は帽子をかぶっておらず頭部のみが露出した状態で傘をさしていました。彼らは話に夢中で足元の状況に気づかなかったのでしょう、後輩が足を滑らせ転倒してしまいます。幸い、雪が厚いところに倒れたため怪我はなさそうだったそうです。彼は後輩を心配しつつ手を貸そうとするのですが、後輩はその手を見ても動きません。「動けるか?」と声をかけても、その声にすら反応を示さない。なんとか彼を起き上がらせ、実験棟に行こうと手を引いても足を動かそうとしない。彼曰く、動かし方が分からない、といった様子だったらしい。
その街は脳科学の最先端の施設を擁していたため、後輩の脳を調べてみることにしました。すると、なんと本来複雑に張り巡らされているはずのニューロンによるネットワークが一切見られなかった……つまり、彼は生まれてから現在に至るまでの記憶を完全に喪失していたのです。思い出せないのではなく、思い出す記憶が存在しない状態。これでは研究はおろか、人間としての生活すらままならないはずです。彼は懸命に記憶を取り戻そうとしましたが、ついに後輩が何かを思い出すことはありませんでした。

話を終えると、「俺がいつあのときの後輩のようになるか分からない、だから怖いんだ」と言い残し、彼は資料室から立ち去っていきました。その後、彼の姿はみていません。

話は少し逸れますが、「ケーララの赤い雨」という怪現象をご存知でしょうか。
2001年7月25日から9月23日にかけて、インド・ケーララ州で観測された文字通りの赤い雨。その色が生物由来のものであるということ以外は原因ははっきりしていません。赤い雨が観測された地域に生える藻類の胞子が原因、というのが当時の調査チームの結論です。しかし、「彗星から地球に降り注いだ未知の微生物が雨雲に入り込んだ結果、雨に色がついたではないか」という論文も発表されています。
今考えると、もみじ雪もこれに似たものだったのではと思います。雪を溶かしてその成分を調べたところ、2種のメラニンが見つかったから。
……なぜメラニンが溶け込んだのかは、考えたくもないですが……。



ペンネーム:ノボル
2023/6/10配信 https://youtube.com/live/W0xnBnt9-os?feature=share
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※ご投稿内容に改行や誤字脱字修正等の加筆をしていることがあります。


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