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知識の外のある力を信じる人々-夢二の記事

「東京災難画信」二、都新聞 大正12年9月15日掲載
浅草観音堂を私は見た。こんなに多くの人達が、こんなに心をこめて礼拝してゐる光景を、私ははじめて見た。琴平様や、増上寺や、観音堂が焼残つたことには、科学的の理由もあらうが、人間がこんなに自然の惨虐に逢つて智識の外の大きな何かの力を信じるのを、誰が笑へるでせう。
神や仏にすがつてゐる人のあまりに多いのを私は見た。 観音堂の「おみくじ場」に群集して、一片の紙に運命を託さうとしてゐる幾百の人々を私は見た。それは必ずしも日頃神信心を怠らない老人や婦人ばかりではない、白セルの洋服のバンドにローマ字をつけた若い紳士や、パナマ帽子を被つた三十男や、束髪を結つた年頃の娘をも、私は見た。
その隣で売つてゐる、「家内安全」「身代隆盛」加護の護符の方が売れ行が悪いのを、私は見た。この人達には、もはや家内も身代もないのであらう。今はたゞ御籤(おみくじ)によって、明日の命を占つてゐるのを、私は見た。

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私はこの絵からは人の声が聞こえてこないと感じました。

ただ黙々とおみくじ売り場に並ぶ人々の、地面の擦れる靴の音、

お金を出す着物の音、それらの音が私の耳の奥の方に響き聞こえてくるのです。


母の腕につかまる子どもにも言葉はなく。

思考の力を失った人々の光景・・・

夢二は黒いペンという、あっさりとした道具で

見つめていると、そこから逃げ出したくなるような濃厚な場面を描いた。

今年、

2022 年元旦の初詣の人出は大幅に増加。

太宰府天満宮は去年の約7倍となったそうだ。

おみくじも、きっと7倍売れたのかな。

ただ黙々とおみくじ売り場に並ぶ人々を語る夢二の言葉は

「知識の外にある大きな何かの力を信じるのを誰が笑へるでせう。」

竹久夢二の記録はこの時代にも適応して、そして優しいのです。

                  キョウコ

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