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#あなたの一押し写真集 コンテスト結果発表【 写真本選書企画 その2 】

本投稿は #あなたの一押し写真集 コンテストの結果発表記事となります。
開催概要等は以下をご確認ください。

はじめに

お待たせしました!
#あなたの一押し写真集 コンテストの結果発表となります!
今回の応募作品は合わせて150冊以上となり、企画者として、非常にうれしく思います。
写真集をタグで閲覧しながら感想を書いてくださる方もおり、
少しでも皆様の知的好奇心に貢献できていれば幸いです。
それでは、早速結果発表に移りたいと思います。

結果発表【大賞】タツタさん『死ぬまでに観ておきたい写真1001』

栄えある大賞には、タツタさんの選んだ『死ぬまでに観ておきたい写真1001』が選ばれました。こちらの写真集に対しての率直な感想含め、「だからこそ見ておきたい」と思わされるツイートだったように思います。対象をこうしたまとめ形式の写真集とすることは審査員の間でも多少議論となったところとなりましたが、初めて手に取る写真集として、これほどまでにわかりやすく良いものも少ないのはまた事実。ぜひ皆さま、手に取ってみてくださいね。

コメント(うちばやし)

正直にいって、とても悩みました(笑) 紹介される写真集の良さ、あるいは見てみたさにばかり気がいってしまうのですが、そういえば、この企画はどちらかといえば写真集紹介をテーマにした小さな文学賞のような趣旨でもあったな、と。なので、後者に特化したかたちで選ばせていただきました。
 まず当該の写真集について少しふれておくと、わたしはどちらかといえばこの写真集には批判的な考えをもっています。というのは、「死ぬまでに見たい」系は美術書ではわりと見かけますが、それは絵画が美術品として、モノとしてきちんと成立しているという前提があります。いいかえれば、《モナ・リザ》ならルーヴルへ、《ゲルニカ》ならソフィア王妃芸術センターへわざわざ旅をしても見に行きたいというニュアンスを含んでいます。それは「死ぬまでに訪れたい」絶景しかり、建築しかりです。すべてではないにしろ、写真はそうなりづらい。少なくとも、この書籍は写真の所蔵先も書いていないし、この本で完結するようにできているように見えることが、本物にふれることの歓びを逆説的に阻害しているように感じてしまうのです。そこが、画集のコンテクストで写真集を作る違和感につながっている。(*ちなみに、本書は原書からこのタイトルなので、邦訳版の版元である実業之日本社さんを批判しているわけではないので、そこもご了承ください。)
 ただし、掲載されている写真に対してそう言っているわけでは決してありません。あくまで、書籍のタイトルが絵画と写真の違いを不必要に意識させることがひっかかるのです。では、なぜこれが受賞なのか? それは、タツタさんのひとことが、本当にすべてだよなとツイートを拝見して以来ずっと心に残ったからです。いわく、「死ぬまでに観ておきたいかっつーと、そうでもない」。いいですねえ、そんなこと他人にきめられたくねーよ的ニュアンス(笑)。でも、重要なのは次のフレーズ「ただ知らずに死ぬのは勿体ない」。そう思わされる1001枚の写真に、どうやったら勝てるのだろうかと考えるというタツタさん。「知らないで死ぬのはもったいない写真1001」ってなんだか、ムカつくけどいいライバルみたいな、よくもわるくもひっかかるみたいな。そういうアンヴィヴァレントな考えが、無上にこの写真集が好き!というのは一味ちがった文学性を感じ、これを選ばせてもらいました。
 写真を見る愉しみ、知る愉しみというのは、大好きなものをなんども見ることでもあり、また他方では、こうやって知らないで生きてるのは勿体ないなという発見の連続なのではないでしょうか。わたしは全面的に同意です。

結果発表【うちばやし賞】<タクヤさん>William Eggleston『Ancient And Modern』

今回、この企画は写真集紹介をテーマにした小さな文学賞のような側面がありました。そのなかでひとつの流れをなした投稿スタイルとして、写真集がメディウムになったものが一定数みられました。いいかえれば、「なぜこの一冊を推すのか」という参加者の動機が自身の経験に結び付けられ、それを文学的センスに転化するための材料として写真集が機能したということです。あくまで本(写真集)が主体の紹介文・書評に終始しなかったところに、わたしども審査員も企画の成り行き的成果を感じています。
 わたし自身は、その愉しみを念頭に審査投票を行い、結果的に合計得点ではなく合議になった大賞も、同様の文脈で選ばせていただきました。タグがつけられたツイートのひとつひとつを読んで、投稿者は何を見ているか、どう見ているかに思いを馳せました。そのような深く、シリアスなひとのものの見方がある一方で、ただ好きだから見る、気軽に写真作品や写真集を所有するという動機も、なににも代えがたい視覚欲求でしょう。「好き/好きなだけじゃない」「シリアスに見る・考える/気軽に見る・考える」というのは、常に同居してこそわたしたちの一押しになるはずです。タクヤさんのエグルストンの写真集との出会いは、わたしたちにそのことを教えてくれた投稿でした。写真の歴史にも、タクヤさんのライフヒストリーにとっても大切な一冊に乾杯!

結果発表【播磨屋賞】<QcuazuhirOさん>林家ペー,パー子さん『林家ペー,パー子の爆笑芸能写真館』

まさかこんな結果になるとは。持ち点制の審査で、3人の審査員から延べ29投稿が推薦されるはずでした。 もちろんその中で重ねて票を集めた投稿が受賞という運びになっていたのでもっと推薦作は減るはずでしたけれども、蓋を開けてみれば並びも並んだりずらりと29投稿、なんと1作として重複することがなかったのです。
 写真集それ自体の歴史的意義ではなく、それを紹介する投稿者のパッションに焦点をあてたある種の文学賞的な取り組みです。そこまで基準を整えておいてなおここまで票が割れるのか!という本当に興味深い結果でした。地方都市で写真史にまつわる興味関心をつまみ食いしているに過ぎない私はともかく、専門家として最前線にいらっしゃるあとのおふたりでさえ、票が割れたのは面白さであり、難しさでもあるのでしょう。
 考えてみれば今回の取り組みは、とにかく道行く人々に「このタワーレコードからあなたの最高のアルバムを一枚を選んできてください!」と声をかけまくる蛮勇ではありました。国もジャンルも年代もバラバラになるのは当たり前で、むしろハッシュタグの流通範囲が「写真」に拘りがある日本語圏に絞られたからこそこれでも収束したほうだったのかもしれません。
 さて、審査委員賞を選ばなければなりません。どれも本当に興味深いものばかりで困難な作業です。今回の投稿では専門書店のいわゆる写真誌コーナーとは別の場所で扱われるかもしれないと思われる作品がいくつもありました。ときに音楽、建築、ファッション、ライフスタイルやカルチャー、料理、スポーツ…そして以前であればむしろ写真の使命ど真ん中であった科学写真の系譜。それらを目にするたびに、頭の中にいつの間にか組み上げられてしまった「写真」のイメージが揺さぶられていきました。私も「最近の写真はつまらない」ぐらいのことは言ったことがあるのですが、それは単に面白いものに接続する力を失ってしまったことのいいわけではなかったかと反省しきりなのです。


  
QcuazuhirO-Studio Works @qm_prophet2020
「林家ペー,パー子の爆笑芸能写真館」

 そこにそんな興味深い写真があるとはまったく思っていなかったところからの一撃で。もし、この本を書店で目にしたとしても、この表紙にフン!と唇を曲げて通り過ぎたことでしょう。興味をひかれて調べてみたところ色んなエピソードに行きあって背筋が寒くなりかけた辺りで、完全に「推され」ていました。
 次の機会があったとして私が審査員枠かは分かりませんが、それまでの間に古今東西あらゆるジャンルにアンテナを張り直していきたいものです。


結果発表【佳作】<Hiroshi ISHIZAWAさん>『iichiko design 2017』/ <乙城蒼无さん>リアム・ウォン『TO:KY:OO』/ <yas_takさん>岡原功祐『Any Given Day』/ <紬もえさん> 川島小鳥『つきのひかり あいのきざし』/ <久馬 衛さん>大原治雄『FOTOGRAFIAS ブラジルの光、家族の風景』/ <photographia_さん>澤田知子『ID400』

佳作には以下の6点が選ばれました。いずれも異なる視点からの選択がなされており、企業の非売品カタログを写真集として取り上げたり、巧みな文章をもって作品を描き出したり、審査員の心を捉えたり。自身の被写体だからこその心境の吐露、といったものも見られました。私が一つ一つを詳しく述べることはしませんが、それぞれの方の語り口のみで、十分にその魅力は表現されているように感じます。

(こちらの図録は現在販売されておりません)

(こちらは下記作者様サイトより注文可能です)

まとめ


今回の写真集企画においては、上でもはりまやさんが話された通り、審査員のすべての票が割れるといった、奇跡的な幕開けで審査が始まりました。(一人およそ10票あって、一度も被らないとはどういうことでしょう……!?)
ただ、私は驚くとともに、これこそが正しい写真の見え方ではないかと、何か納得したような気持でした。お互いの思惑すら超えた中で、写真にも、文章にもそれぞれに好みがあり、そうした好みを思いっきりぶつけた写真集コンテストだったからこそ、審査員の私たちにもそのどれもが魅力的に見えました。次に少しだけ写真集を追加で掲載しますが、誌面の都合上ここに掲載されなかった写真集にも、よいものは非常に多くありました。

審査をする中で、様々な写真集と触れ合い、様々な意見を頂戴しました。前回行った、写真史本の選書企画でもそうですが、写真について、改めて考え直す機会を、審査員にも、参加者の皆様にも、タグを目にされた方にも、ほんの少しでも提供できたかと思います。

賞金のみを辞退いただいた方、無償で協力してくださった審査員のお二人の非常に心強い協力によって、今回のコンテストは成り立っております。皆様の、本来ではありえないようなレベルのご厚意によって最後まで完遂することができたことに非常に感謝し、今回はこのあたりで筆をおきたいと思います。投稿記事としては4000字を超え、掲載作品の文字数を足せば5000字を超える長文となりましたが、最後まで読んでくださった方、まことにありがとうございました。また何か、面白いことやっていきますので、よろしくお願いいたします!

(また、ここに掲載したAmazonリンクは、モノによっては定価以上の販売額として表示されていることを確認しております。プレミア化等もあるのでしょうが、こちらのリンクから買っていただくのはありがたいものの、正しい価格を確認の上、お買い求めいただければ幸いです。)

惜しくも選ばれなかった作品を少し紹介















サポートして頂けた分は、写真に対する活動全てに充てさせて頂きます。缶コーヒー1本分からの善意への期待を、ここにこっそり記します。