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夕涼み

夕涼み

自分の部屋がある事は有り難い。 たった一部屋に過ぎないが、されど一部屋で、大変貴重だ。

とは言え、夕方散策が終わっても、なかなか帰る気にはなれない。

広大な空を眺め、遠くの地平線を何時迄も見ていたい。

寄せては返す波の音を聞いていたい。

通り過ぎる人の声も心地よい。知らない人であっても、 人には違いない。

気の置けない生活を選んで正解だと思う。

人生の最後ぐらい、とことん自分と付き合っても良いのではないか。

「人間とは、 生きるという事は」と言った、哲学的な事を、散歩中に考えるのも乙なものだと思う。

夏の真昼間は日差しが強過ぎて、散歩に向かないので、 海風が吹く木陰で読書と決め込む。

それでも、暑すぎる時は、 コーヒーショップの店内に逃げ込んだり、ホテルのロビーで読書。

夕方、太陽が西に傾き気温が少し下がった頃、おもむろに、書物を閉じ散策す。

この組み合わせが好きだ。私の気性にとても合っている。

一年ほどホノルルに住んでいて、暇人が多そうな印象を受ける。

でも、 喜寿を迎えるような後期高齢者仲間になった私には、のんびりムードが肌に合う。

転ばぬよう、 ゆっくり歩き回る私。

無理せず、 ベンチを見つけると数回は座り込む。 近くにいつでも誰か人がいる。

若い人々の動きが目を楽しませてくれる。

一人で行動している人も多いので、一人者にはとても有り難い。 周りの雰囲気に溶け込み易いのだ。

全てを包むように波の音。海風が肌を撫でて行く。

三日月が夕空にくっきり見える。

今日も素敵な夕涼みができた。 これを幸せと言わずに何とする。


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