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1-5,パーフェクトブルー/Perfect Blue

パーフェクトブルー/Perfect Blue

絵の具の水を君の絵に溢した。
君はそれを美しいと言った。
謝ろうと思っていたのに謝るタイミングを逃した。
僕の筆を溶かした鈍色のそれは刃物みたいに心をなぞった。
画用紙は今にも千切れ落ちてしまいそうな裏側を繋ぎ止める死体。
頭蓋骨を反響する罪悪感。あの日から観て有り得ない明日が僕の心を仄暗くする。
このブラック、ブルー、混ざった絵の具が美しいと言ったヴェノムだ。
完成間近の絵画を眺め、反省が舌を巻いたら笑える。
絵の具の水をワンピースに溢した。

後悔を濃くしたり(歳月を摘む)
後悔を薄めたり(ハーヴェストムーン)
透明な手の中に(歳月を塗る)
浮かぶ恋は(パーフェクトブルー)

絵の具の水をワンピースに溢した。
君の真っ白なワンピースを汚した。
君はそれを美しいと言った。
僕はそれを苦しいと思った。
謝りたいのに腹が痛いのに抗いたいからあなたいないから、裸に描いたら脱がして欲しい。
素肌にへばり付くこのワンシーン。
クラスメイトの軽蔑の目線、比べる冷笑、この辺で濡らして。
美しさを履いた靴下、くるぶしから滴った許しが 、届かない君を保健室に連れてく。濡れた教科書、机と椅子。
完成間近だった君の絵の明日、君の声を聞き取れず逃した。

透明を濃くしたり(歳月を摘む)
透明を薄めたり(ハーヴェストムーン)
濡れた絵の中に(歳月を塗る)
浮かぶ恋は(パーフェクトブルー)

あの気に入っていた青色は次の図工の時間には固まってしまって、
水で溶かしても同じ色にはならないまま、再現できないあの青の上。
あの時、すぐに謝っていれば、
大人になるまでこんな気持ちを引きずらずに済んだんだ。
絵の具の水を君のワンピースに溢した。
君はそれを美しいと言った。
僕が気に入っていた完璧な青は、君を汚して永遠になった。
水で薄まった完璧な青は、君の未完成を置き去りにした。
保健室から戻ったジャージ姿に、謝ろうとしたのに君は笑った。

後悔という道に(歳月を摘む)
通れないほど水浸し(ハーヴェストムーン)
汚れた手の中に(歳月を塗る)
浮かぶ恋は(パーフェクトブルー)
揺れた胸の中に(歳月を摘む)
持っていたこの作品(ハーヴェストムーン)
純然たる青空に(歳月を塗る)
落下して泥だらけ(パーフェクトブルー)


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