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アルカディア


西八王子にあるアルカディアというお店の店主さんが亡くなったことを聞いたのは金曜日の夜だった。

2009年の年末にはじめてアルカディアを訪れた。カウンターにはレコードがぎっしりと並んでいた。壁際には本がたくさん敷き詰められていた。カウンターの方の壁に面出しされて飾られていたCDには、友部正人やたまのCDがあった。友部正人が好きなぼくは店主さんと友部正人のことを話した。そのとき店主さんが話してくれた友部正人のアルバム『にんじん』の解釈“にんじん論”はいまでも忘れられないし、おそらくその通りなのではないかと思う。
その話の流れで、「友部さんが好きだったらこの人知ってる?」といって教えてもらったのが、双葉双一というフォークシンガーだった。
それからアルカディアにたびたび遊びに行くようになり、双葉双一のCDを買って聴いたりライブに足を運ぶようになった。
2010年の春の終わりに、友部正人と双葉双一のライブをアルカディアでやらせてもらえないか、という話をしにお店に行った。店主さんは2つ返事で快く引き受けてくれた。いま振り返ると、なんとも図々しいことをしたな、と思う。まだお店に行き始めて数ヶ月しか経っていないのに…。
2010年11月18日、お店の32周年記念ライブとして、友部正人と双葉双一のライブがアルカディアで行われた。なんとも夢のような時間だった。

それからも度々アルカディアを訪れては終電までお酒を飲んだ。たまに、帰れなくなってしまった日もあったけど…。アルカディアにいるとあっという間に時間が過ぎて行ってしまう。まだ22:00か、あと一杯…と思って飲んでいると、気がついたら日付を越えている。

ぼくが大学を卒業してからは、あまりお店にも行けなくなってしまって、2、3年に一度くらいの頻度でお店に行った。店主さんと最後に会ったのは、昨年の7月だった。ザ・バンドの映画の話と、友部正人のことを少しだけ話した。

通夜や告別式はなく、面会という形で今日お別れをしてきた。

もしアルカディアに行っていなかったら、ということを考えると、ぼくの20代はだいぶ違うものになっていたと思う。足繁く通っていたわけではぜんぜんないので烏滸がましいけれども、双葉双一というミュージシャンを知ることがなかったかもしれないし、アルカディアを通して知り合った人たちとも知り合わなかったはずだ。

たくさんの楽しい時間をありがとうございました。
お店はなくならないとのことなので、いろいろ落ち着いたらまた遊びに行こう。店主さんの作る美味しいご飯が食べられないのがさみしいけど、また時間を忘れてお酒を飲みに行こう。

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