冗談じゃない旅 本編弐
映画『冗談じゃないよ』の
ネタバレがあります ご注意ください
※前回に引き続き 映画の流れのまま
言葉を羅列しています
これが感想と言えない気もしますが
素直な気持ちをそのまま書いていきます
( )の中は本編の外での話や
私の感想、浮かんだ言葉などです
なお描写については、記憶を元に
シーンを書き起こしているため
順番が違っていたり
細かな台詞が違ったり
欠落なんかも多分にあると思います
どうか、やんわり見ていただけたら…
今回は「生きにくさ」に これでもかと
殴られ続けるような内容です
人生の壁にぶち当たる感じ…
壁というか崖から落ちてく感じか
では、見ていきましょう
本編
砂丘の2人
丈が砂丘で踊る 奇妙な調子の歌で踊る
そこに このみが現れる 同じ調子で踊る
2人乗りでバイクを飛ばす
音は聞こえなくなるが 2人の顔は明るい
(これまでの砂丘のシーンは 丈1人だったが
このみが 丈の心象風景に登場する
心の大きなエレメントとして
このみと生きていることを示唆しているのか
重なりあう想いを象徴するシーンにも感じる)
(一方、砂丘を丈の心象風景とするならば
どうしても気になるのは このみの存在
このシーンの このみはあくまで
丈の内に宿る このみなのではないか
理想を夢見ている 丈のイメージであり
本人の気持ちとは別の
違う星に住む人なのではないか
丈にむけられている 優しさや笑顔は
丈の願望や 欲望なのではないか
では、このみの気持ちは 本心は
いったい どこにあるのか?)
ドラマロケ
人気俳優 片桐蒼のドラマ
『アクションヒーローサラリーマン』
ワンシーンに 丈と進は端役で出ることに
飯塚に紹介されたドラマだろう
ロケ車でメイクチェックをもらう片桐
突然ドアが開き 面識ない丈が乗り込んでくる
戸惑う片桐とメイクスタッフ
「マジでいい作品にしましょう!」
気持ちが先走るように 目もバキバキな丈
すぐ出ていったものの 嵐のような出来事に
面食らう2人
「何!何!」
と、顔を見合わせて吹き出す
(この突撃楽屋挨拶のエピソードも
海老沢七海の実体験に寄せている)
(日下監督は映画作成に当たり
海老沢の誕生から現在までの 様々な話を聞き
随所で その話を脚本に落とし込んでいる)
(役者江田丈と役者海老沢七海が
クロスオーバーしているせいか
妙にリアリティーがある 面白すぎる)
アクションヒーローサラリーマンが
チンピラを蹴散らし女性を助けるシーン
丈たちは蹴散らされるチンピラ役
丈の空回りは 演技でも変わらず
台本と違う動きをする 撮影を止める
リテイクが続く 時間ばかりが経過する
最終的に丈は 監督から役を下ろされてしまう
(リアルに景色は
午後から日暮れになっていく
撮影時も、時間経過がタイトだったとの話
同じ撮影場所の画が 昼→夕方→夕闇になる
劇場で笑いを堪えるのが一番大変だった)
(流石にリテイク三回目くらいになると
面倒くさそうに演技する役者も出てくる
しかし、塩谷進は安定して同じ演技を見せる
丈が不器用であると決定的にわかるシーン)
(アクションヒーローサラリーマン役の
佐野岳は 舞台挨拶でも軽く触れていたが
かつて仮面ライダー(本物)を演じている
変身の口上や振り付けのキレが特級
振り付けは指定された訳ではなく
監督からお任せ…もとい
丸投げされたらしい)
(余談だが、仮面ライダー鎧武(ガイム)は
子どもがリアタイしていました
その子ももう高校生 怖いですねぇ)
すっかり日が暮れてしまった撮影終わり
機材がはけるのを待つ 丈と進
事務所の飯塚がやってきて 丈に声をかける
飯「どうした?…なんでできない」
丈「いや。あぁやって言われたら
自分的には…納得できないっていうか…」
飯「そういうの求められてからやってくれ
どうしておまえを見てるか分かるか?」
丈は"分からない"としか答えられない
(自分が正しいと思う演技と
人から求められる演技の狭間で
器用に生きられないまっすぐさが
丈を雁字搦めにしている)
片桐は 丈たちに声をかける
平謝りする飯塚へ「いや」と前置きして
片「久しぶりに楽しかったです。
また共演できるよう頑張りますので…」
明るさ 爽やかさ
礼儀と社交辞令 嫌味のない言い回し
配慮できる役者の鑑 人気俳優、片桐壮
羽でも生えたかのような軽やかさで
マネージャーと帰っていく
取り残された丈たちが 夜の暗がりに浮かぶ
告白
洗濯物を畳む 丈とこのみ
明るくおかしな調子で歌う丈
こ「大事な話がある」
そう言う このみの声を聞いても
丈は冗談交じりに しばらく歌い続ける
こ「ちゃんと聞いて、大事な話」
丈「ごめんごめん、はい。何?大事な話」
口ごもりながら このみは妊娠を告げる
少しの間をおいて 丈は大袈裟に喜んで見せる
丈「…やったじゃん!じゃあ…結婚じゃん!」
このみの目から涙がこぼれる
丈「…なんで泣いてるの?」
深いため息 このみは絞り出すように言う
こ「一生、死にたくなりながらさぁ…
…生きてくかな」
このみの不安が 次々と言葉になる
こ「子ども好きになれなかったらどうしよう…
可愛いとか思えなかったらどうしよう」
丈は なんとかこのみを励まそうと
前向きに見える言葉を並べたてる
丈「大丈夫だって!
だって、この髪の毛に この目だよ?
絶対可愛いから!…俺、頑張るから!」
こ「なにを?何を頑張るの?」
丈「ちゃんとするから!」
こ「ちゃんとするって、何を?」
丈「バイトも役者も!ちゃんと頑張るから!」
言葉が余計に、このみを悲しませる
丈「めでたいからケーキ!
ケーキ買ってくるから!休んでて!」
このみは 諦めに近い表情
ベッドに深く沈んでいく
(生活の不安 出産の不安 将来の不安
なにより結婚という順序を飛ばして
命を宿した後ろめたさが
このみの中にあったのではないか)
(丈の大袈裟な喜びは 見当違いに映る
このみの言葉の 本質の先にある 様々な不安
それらが横たわっていることを
丈は 理解していない 視線を向けていない
優しさだけでは 正しさとは言えない
向き合う方向を知らない 考え方を変えない
ちぐはぐな感情の すれ違い
丈には なにも見えていない)
オーディション 伊東組
会場に3人の若者がいる その1人に丈の姿
伊東監督とスタッフが正面の机に陣取っている
演者たちは右手から 自己紹介をする
原「原翔太です。役取りきました
命かけてます」
はじめの男が大きく出る
続いて丈 そして3人目
2人は簡単に済ます
伊「ではまず…江田さんと、原さん
組んでもらって」
演技を見るため監督が指示を出す
丈と原が向き合う
原はポケットから 台詞の紙を取り出す
一瞬、伊東の目が光る
丈は目の前の出来事に呆然とする
合図がかかる「では…ヨーイ、ハイ!」
原「おいオメエ、ここいらじゃ見ねえ顔だな」
紙をちらりと見つつ 台詞を言う原
丈は 何も言わない
信じられないといった目線
原は一瞬躊躇するが 台詞を繰り返す
原「おいオメエ、ここいらじゃ…」
詰め寄り 紙を取り上げる丈
丈「命かけてるんじゃねえのかよ…」
原「…は?」
丈は怒りを爆発させる
丈「お前!ふざけんなよ!
命かけてんじゃねえのかよ!
そんなんじゃ…芝居できないじゃん!」
悲壮な叫びを浴びせ 原を壁に押し飛ばす
伊「あーカット!カット!」
伊東は眉間にしわを寄せ 進行を止める
原は困惑する
原「は?…いや。ちゃんと芝居してないの
あんたじゃないっすか…」
怯えの表情の原
丈は演技を外され 座るように指示される
激昂に 冷や水を浴びせられたような面持ち
茫然自失になった丈の耳に 声は入らない
しばらく座ることすらできない
(演者は前もって台詞を覚えるのが定石
意識の高い低い 能力のありなし
選考の判断基準にもなるようだ
劇中、丈が台本を持つ描写はない
熱意は形となり 頭に刻まれるのだろう
役者とはこうあるべきだ という信念
相手にも同じ理想を求めてしまう
結果 心の行き違いが起きてしまう)
(だが一方で演技に正解はないともいわれる 何にも頼らず 演技できるに越したことはない
ただ、原は 彼なりに演技していたことは事実
原を演じる松㟢翔平 風呂敷を広げた割に
演技への姿勢が低空飛行の役を演じきった
原は役者としての準備に疑問がなく
台詞を見ながら演じようとしていた
本読みでも演じられれば良いという感覚
自分の演技に対し激昂した丈への不信
困惑、鬱陶しさが その態度に表れている
もう一つの役者としての正しさが現れるから
丈の悩ましさを浮き彫りにもしている)
(丈はこのシーンで
演者として 流れのまま演じるべきだった
監督がありのままを見定めるのが目的だからだ
しかし丈は 自分を曲げられない
自分の信条に 嘘がつけない
そして いくら考えても
何が間違っていたのかが わからない
どんなに考えても 自分は間違っていないと
強く、深く思っているから)
(伊東監督演じる田口智弘は
短いカットの中で様々な表情を見せている
室内が緊迫する 不穏な空気になる
場の空気の支配権は 監督にあったし
丈が取り残されるような あの場の空気は
監督の苛立つ言葉などから滲み出されている)
丈の焦り
うまく行かないことは続いていく
荷揚げ現場山本と望月が資材に腰かけている
図面を睨んで何やら相談している
望「全然違うんすよ…」
山「またやりやがったな」
渋い二人の顔が より渋くなる
これまでも 何度か失敗があったようだ
誰の失敗かは 語られていないが
非は誰にあるのか 空気感が示している
丈が鼻息荒く現れ 山本に要求をたれる
丈「山本さん。前払いいけますか」
このみのためなのか 金が必要らしい
焦っている 必死の様子だが
理由を話さない
突然の要求に 望月が苛立ちながら返す
望「週払いしてるだろが」
丈「わかって言ってる!
わかってて言ってるんです!山本さん!」と、山本へ更に懇願する
そこに現場監督の 目山がやってくる
山本たちは 丈を置いて立ち上がる
作業の段取りが狂ったことについて
目山と相談しようと声かけする
丈は怒鳴り込むように詰め寄る丈
「目山さん!前払いいけますよね!」
たじろぐ目山
いい加減にしろ、と引き離す望月
山本が「すいません…」と現場監督に謝罪する
目山は声を絞りつつ嫌味を言う
目「ちゃんと教育してくれなきゃ…
怖いねー。…彼、外人さん?」
丈の耳に入り 激昂する
丈「なんだよこの野郎!日本人だよ!」
山本が声を荒げる
山「オイ!」
丈を制止させ 下がるよう促す
「…ちょっと待ってろ。あとで話すっから」
(山本は棟梁として板挟みの立場だが
このシーンでの表情は複雑に感じ取れた
大人しくしていろと釘を刺す責任感
部下の無作法への怒りを抑える自制心
うまく仕事がこなせない部下への哀れみ
守らなければならない仕事と
守らなければならない部下との兼ね合い
立場上、今の時点では これ以上
丈へ言葉をかけられない歯がゆさ…
経験値が高い大人の、深みある表情
引き込まれるカット)
丈はうなだれ 離れていく
山本たちが相談のため目を離した数秒後
大きな物音 倒れた脚立
足を抑えてうずくまる丈
目「あー、ほら、やったよ…」
呆れる監督と一同
駆け寄り肩を貸すのは岡田だった
岡「大丈夫か?ゆっくりいくぞ」
岡田は邪魔にならない場所へ連れ出す
気遣う人間は岡田の以外に描かれていない
現場の端で休む丈
ミラーパネルに映る
気の抜けた顔 うつろな瞳
金が必要なのに どうしてうまくいかないのか
喪失感 悔しさ 虚しさ 苛立ち
そんな思いが 顔に書いてある
夜 足を引きずったまま 丈は帰宅する
本当の喪失
部屋の中 人の気配がない
静かに部屋を見まわす
違和感に気付く
丈の所有物以外は全て 部屋から消えている
部屋に雑然と置かれた このみの衣類や小物も
壁にあった このみとの写真も
そして このみ自身の姿も
ただ一つだけ 机に残されていたのは
このみが作っていた 折り紙のメダル
以前に 保育園の園児たちへ
このみが名前を書いていた
あの折り紙のメダル
そこには短く 別れの言葉が記されている
「ありがとう ごめんね」
丈の胸に混乱がやってくる
丈はスマホで電話をかける
冷たいガイダンスが流れる
「おかけになった電話番号への通話は…」
再度かける 肩が震え 息が上がる
「…番号への通話はお繋ぎできません…」
繰り返される結果 変わることはない
「どうして…」
ベッドで狼狽える 嗚咽が漏れる
繋がらない電話が 丈の世界のすべてのよう
何がいけなかったのか
混乱の色が部屋を染めていく
丈の胸に答えはない
呻くように 涙を流すことしかできない
(このみは なぜ離れたのか
妊娠を告げてなお 役者を続け
バイトを頑張ると 意気込んだ丈
丈の考える正しさが 優しさが
不安になって このみを覆ったのか
丈から離れたのは 彼が優しいから
その純粋な姿に 耐えられなかったのか
このみの行為は 裏切りだろうか
優しさは 必ずしも正しさではない
このみは 体を思いやれば 今後
保育の仕事を 辞めざるをえないだろう
職業柄 良く理解しているはずである
そして、丈の優しさが辛いと訴えたとしても
丈は 器用に生き方を変えられない
それは誰よりこのみが よく知っていただろう
このみは そんな環境から
避難したかったのかもしれない
ただ、本当の理由は描かれていない
理由を明かさない 含みを持たせた余白が
観客に想像の余地を与えている
人生でぶち当たる 「どうして」や「なぜ」に
答えを見い出すのは 容易なことではない
1人残された丈に 見つけ出せるだろうか)
孤独な砂丘
砂丘の長い坂を 丈が叫びながら
延々と転げ落ちていく
丈の心象のイメージ 砂浜 強風 ただ1人
失敗 転落 傷つき戻れない 現実
砂地に顔をうずめて うつ伏せの丈
倒れこむ丈の顔は 砂にまみれている
風が強い 地表の砂が顔を叩く
目を開けていられない 息も浅い
また顔を砂にうずめ戻す
(苦い思い 諦め 失意 妥協
心が瀕死のまま 生きていること
現実を直視する気力もうまれない隠喩か)
(場面ごとに挿入される 砂丘は
設定によると 別の惑星とされている
惑星の名前は『ニューラゴーン』
劇中で「どこである」と明言されておらず
心象風景と推察できる描かれ方がされている
名前は新潟が由来)
流れの果て
ベッドで丈は目覚める
(テロップ『四年後』)
荒れた部屋の暮らし
ゴミの散らかる室内
脱ぎ散らかされた衣類
壁一面にはメモ書き
それがドラマのセリフなのか
出演予定の覚え書きなのか
仕事の予定表なのか
判別はできない
枯れたサボテンと観葉植物に水をやる
不毛な行動 気だるく無気力な動き
コップの飲み物を飲むも 口当たりが悪い
いつ淹れたものかわからない様子
ため息 このみが戻った様子はない
丈は30歳になっていた
(このみのいない 四年間だっただろう
人に心許すことは 難しかったろうか
誰かと付き合ったり 話をしたり
悩みを解放したり 丈はできただろうか
生活の変化は 丈をどう変えたか
人間はなかなか変われない
何がいけなかったか どうしてそうなったか
漠然と答えをつかめないまま
根腐れし 新しい芽を伸ばせずにいる日々
かつての明るさ 陽気さ 無邪気な顔は
もはや丈には 残されてはいないようだった)
本日はここまで
連日にわたり、お付き合いいただき
ありがとうございます。
丈には苦しい日々でしたね。
生き辛さのモツ煮の連続でした。
どんどん転落していく、その因子が
本人の良かれと思って行う気遣いだったり
信条からくる優しさだったり
曲げられない性格だったりするのが
また辛いところです。
自分にも身に覚えのある内容もあるので
これがまた 後ろから刺されるようでキツイ。
労働、生活費、恋愛、結婚…
それぞれが生き方そのものだから
他人にも単純に答えがだせない。
気を許す人にも、相談が難しいものもある。
20代から30代にもなれば
年長者に相談できるようなコミュニティを
自分で構築しなくてはいけないが
人に気を許していない丈には
ハードルが高そうで。
親と疎遠ともなれば、アドバイスや
経験値ある話を聞くのは より困難だし。
劇中には様々な立場の人がいて
主人公視点でないところから
物語を見てみると、そこにはまた
違った心が垣間見えて 面白い。
NGを繰り返す演者がいる撮影日のスタッフ
賃金を前払いしろと言う年上の後輩
現場で失敗したり怪我をする従業員
収入が低いのに夢を諦めない彼氏
妊娠を告げても現実見てない男
それぞれが対峙する問題には
それぞれの「冗談じゃないよ」がある。
現場にいるのが自分だとしたら…
ボヤきそうな状況になるよなと共感する。
次回は
四年後の丈の生活。
彼は何をして どう暮らしているのか。
その先に 何を見るのか。
それでは、また明日
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