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別府湯巡り紀行 拾


この物語は

2022年11月5日、6日に

別府ビーコンプラザ

フィルハーモニアホールにて行われた

即興演劇集団「ロクディムにわか」公演

劇場観覧に乗じて

にわか湯巡りをしまくった

ある男の記録である。


目次


序章 なにも知らないのはいつものこと
第1章 別府の洗礼 
第2章 長い道のり
第3章 別府市民憲
第4章 猫の目
第5章 爽やかな海に
第6章 昼下がりのマーチ
第7章 夕暮れのビーコンプラザまで
第8章 夜、さまよう旅路
第9章 宿にて
第10章 午前中ってのは短いんですよ?




第10章

午前中ってのは短いんですよ?
~温泉の本流~

2日目 08:30~11:30




08:30



は?


08:30



わりと寝すぎた…

身支度をして出かけよう。

朝市…。食材…。

場所の目星もつけてない。

目星つけていたのは温泉だけだ。



宿を出て、大通りに向かう。

と、数メートルも行かないうちに
見たことある顔が向こうから歩いてくる。

「…あれぇ?鄭さん…ですか?」

「はい…(誰?)」

街の道端で知らない人に声をかけられ
頭の上にハテナがたくさんある。
まあ、無理もない。ぼくはといえば
昨日、ロビーで初めて出会った顔の1人だ。
覚えていたら、まあまあ怖い。

けど、覚えてはいなさそう。
よかった。怖くない。

せめて自分が何で知っているのか
鄭さんには安心してもらおう。

「昨日ロクディムの舞台で…!」
「あぁ!ありがとうございます!」
「今日も楽しみにしてます」
「それはどうも…」
「ではまた…」

お互い歩みを緩めるも
立ち止まることなくすれ違う。

なんでもない偶然の連なりも

ドラマチックに感じてみよう。

ここは旅路の2日目、出発地点だ。

良く晴れている。

今はまだ若干肌寒い。

日中、暑くなることはないだろう。

 

 

11湯目 若草温泉

 

こちらは男湯入口
左の階段降り口、その先が女湯入口である


大型商業施設のある海岸線の大通りを
ひたすら北へ向かって歩く。
すると左手に現れる。
赤いレンガ色の外壁が
どっしりとした風合い。

建物前の交通量は少なくない。
歩道もあまりないので、飛び出し注意。

 

狭い玄関に募金箱とスタンプ。扉を入れば
下駄箱、脱衣所のスペース。広さはない。

浴室は脱衣所との間仕切りを挟み階段で
半地下、意外と深堀の印象だ。

全体的に時間帯のせいか少し暗い。
壁面のタイルには緑が描かれている。


湿度が高い。先客がいるためか。

 

1人お父さんが入浴中だった。
挨拶をして体を洗う。
洗面器で洗い流してから
湯船に入ろうとすると注意を受ける

「洗面器は元の場所に戻しなさい」

オッと、ごめんなさい。
小さなことではあるが大切だ
浴場内の秩序は守らないといけない。
しっかり叱ってくれてありがたい。

2日目始まりの温泉で、良い気づきを得る。

 

 

午前中は短いが、昼の劇場観覧までに
どのくらい湯巡りできるかな。

2、3分、整えつつ湯に浸かる。

お父さんにお礼を言い、スッと湯を出る。
近くにはもう1つ温泉がある。

 

 

若草温泉から大通りへ戻り

来た道を戻る。10分とかからず到着する。

 

 

 

 

 

12湯目 的ヶ浜温泉

 

「北的ヶ浜温泉」の看板があるけども
地図は「的ヶ浜温泉」
スタンプも「的ヶ浜温泉」でした
どっちなんだい?



入口にお地蔵様がいらした。
他の浴場でもよく見かける。

昔から街道と人を見守ってきたのかな。
そんなお地蔵さまも地域の人とともに
浴場を見守ってくださっているのであろう。

 

ありがたいなぁ…


自然と感謝の気持ちが出てくる。

お賽銭を入れ、スタンプを押す。

 ガラリと戸を開ける。

第一印象、静かで広い。

人が誰もいない。


これは…!ありがたいなぁ…!

 

ひんやりとした空気が気持ちいい。

脱衣所と浴場に仕切りはなく

奥に広がっているからか、とても開放的。

浅堀の半地下。浴槽は楕円で湯をたたえする。

若草温泉よりも海の街道に面しているからか

大通り側の窓からは午前中の海風が入る。

そよぐ風は穏やかで、そして爽やかだ。

 

体を洗って、入浴。
湯温は、しっかり熱い。それがいい。
洗い場の床は一枚一枚が大きな石材。
一枚一辺、50センチくらいだろうか?
広い床面をさらに大きく見せてくれる。
タイルとはまた違った良さがある。

 

雰囲気を楽しむ脳とは裏腹に体は正直。

 

風呂の中でも音が聞こえる。

 

ぐぅ~

 

空腹である。

 

「…う~ん」

 

もうじき昼だけど

 

朝ごはんどうしよう

 

朝、寝ぼけたまま身支度をして宿を出た。

あらかた食料は置いてきてしまった。

 

一度戻って食べようか。


 

 

湯から上がる

体が軽くなった気がするのは

お腹が空いているからだよなぁ

などと考えながらタオルで体を拭く。


 

さて、この「タオル」だが。

旅路の準備段階にて
最も試行錯誤したアイテムだったりする。

今回の旅にて大活躍してくれた
変哲の無い、たった1枚のタオル。

 

当たり前のことだが
風呂に入れば体が濡れる。
拭かねば風呂から上がれない。
たくさんの風呂に入る中で
体を乾かすのは相当な手間でもある。

そしてその手間の先に出現するのが
重量級の旅の難敵「濡れタオル」


一般にタオルといえば木綿のなど
柔らかく厚手のものを想像するだろう。
しかしそんなタオルは、一度吸水すれば
乾きにくく、水分を含み重くなる。
旅の途上では取り扱いに大変困る代物
「濡れタオル」が爆誕するのである。

 

この出現は事前に予測していた。
別府湯巡り紀行の計画段階で
いくつかの銭湯で
タオル素材選出を試みる。

結果導き出された「タオル」の最適解は

「化繊のタオル(冷感タオル)」であった。

 

絞れば割とすぐに乾く。そして軽い。
さらに、もし体温が高くなったとしても
タオルを振り回せば即席の冷却材にもなる。
薄手で携行しやすく速乾性も期待でき、
冷感タオルにもなる優れたアイテムといえた。

 

 

実際はどうか?というと期待以上。
体も洗えるし、石鹸で濯げば
ほんわかいい香りだってする。

しっかり絞ったうえで
軽く振り回し、首に巻くと
なんとも涼しい。

湯巡りのためにあるのでは
と思うほどである。

 

「役に立つなあ、きみは…」

 

使い倒されていくタオルへ
ちょっと羨むような眼差しをおくる。

 

 

浴場を後にして、大通りから宿へ向かう。
「もち吉」があったのでお団子を買う。
マンハッタン1個では心もとない。

 

「もうちょっといいモノ食べたら?」
と、心の中で理性の声がした

「旅先はお団子食べたくなりますよね!」
うっかり八兵衛がそう言って打ち消した。

 

 

軽い足取りで宿のキッチンに戻る。

 
昨晩、ドラッグストアでは
地方ならではのものも買っていた。
冷蔵庫から取り出す。


贅沢に、飲みくらべてみた。



お団子アソート


マンハッタン…

マンハッタン、お団子、カフェオレ…


いや、これは違うなぁ。


朝食でも昼食でもない。


間食だ! 間食! 間食!



小腹は満たせるが

食事のバランスが非常に悪い。

何とはなしにこのまま

最終日まで行きそうで怖い。



空腹を満たしながら
朝起きられなかったのを
小さく後悔していた。

本来なら6時から
北部の亀川エリアを散策か、思いきって
南部の浜脇エリアへ行きたかったが。。
予定を変更して、昨日巡れていない
海岸沿いの2湯へ行ってみた。
悪くなかった。

後悔は早々にお仕舞いにして。

サテ、次はどうするかな。



ふと、昨日スマホの電源が落ちたあと
歩いて目にした温泉の看板たちを思い出す。


ああ、確か。温泉はいくつもあったはず。
地図をよく見て、昨日の行程を辿ってみる。
歩いた道すがらには温泉施設が点在している。


そうだな。1度見た場所へ行こう。
バラバラと各地に残していくより
可能なだけ、入湯を完遂してこう。



自ずとルートが見えてきた。

午前中ってのは短いんですよ?

さあ、早く行きましょうか。



10:30


宿を出る。
まずは商店街を歩いて
昨日見た場所まで戻ろう。


別府の商店街アーケードは
南北に連なる幾本かの本通りがあり
東西に伸びるたくさんの路地でできていた。

四日市にも歓楽街があるが、とてもじゃない。
その広さ、規模は比にならない。
別府の方が圧倒的に広い。

遠く山の中腹には「ラクテンチ」の文字

昨夜のことを思い出していた。
ドラッグストアから出た辺りで
サッカーの応援歌のような野太い声が
山の方から聞こえていた。

山を見ると遊園地の照明が灯る。
「ラクテンチ」のネオンが輝く。

煩悩は煩悩らしく
「あそこ!行きたい!楽しそう!」
と騒いでいた。
「スマホで写真も撮れないが?行くの?」
理性はあくまで理性的だった。

結果、今回の旅で行くことはなかったが
とある理由から、次回は行きたい場所になる。
それは少し後のお話。




15分ほど、長いアーケードを歩き
街道に出る。温泉がこの先にある。


13湯目 永石温泉

「なげしおんせん」と読むらしい。
古いお堂のような外観。
見とれて写真を取り忘れる。


中に入ると受付にお姉さん。
左が女湯、右が男湯。
スタンプを押すと、左を案内されかける。

それは昨日やったから。もう大丈夫!
「こんなナリですが、男です…」
申し訳ないです。と、お断りをいれる。

戸を開けると、下駄箱、脱衣所。
おお、広い。外観より想像以上に広い。

浴場と脱衣所の間に壁はない。
磨りガラスの窓と、差し込む午前の光。
焦げ茶色した年期の入った窓枠。
天井が高い。天井を形作る構造も見える。

浴室は深堀の半地下。
空気はカラッとしている。
下へ続く階段は横に幅がとても広く
まるで雛壇のよう。

洗い場は、またいい具合に古めかしい。

ロケーションが、堪らなく素敵だ。

お客は老若あわせて3人ほどがいる。

いつものように汗を流し、浴槽へ入る。

昼までの予定を
頭のなかで
練ってみる。



本日のロクディムの舞台は
13:00開場
14:00開幕
鬼門となるのは11時くらいからの
共同浴場お昼タイムである。

ぼくもお昼は食べたい。
舞台までは入湯できるのもあと
2つくらいだろうか。

時計を見ると時刻は

10:55

おおう。

もう、お昼タイムじゃないか。
湯船には5分も留まらずにあがる。

この温泉はまた来たいな。
次回、別府に来たら再訪しよう。
小さく胸に刻む。



次の温泉を探す。

目の前にも、紙湯温泉なる温泉が。
ただ、この時間は開いていない。
夜にまた来てみよう。
少し山側へ行った施設を目指す。




14湯目 此花温泉

「このはなおんせん」と呼ぶ。
永石温泉から歩いて5分ほどだ。

狭い路地の先に看板がポツンとあった。
お昼タイムまでギリギリかもしれない。
写真はあとでいいや。入ろう。


入口を潜るとお地蔵さまが鎮座していらした。
お邪魔します、手を合わせる。

受付に、お姉さんがいる。

毎度のことだが男女問わず
年代のことは言わない。不毛だから。
お姉さんはお姉さんだし、
お兄さんはお兄さんだ。
お母さんはお母さんだし、
爺様は爺様だ。
他意はない。

アホなことを考えつつ
料金を払い、脱衣所へ。と。

やはり女湯を案内されかける。

「ごめんなさいね、こんなナリですが…」

もう慣れたものである。
さっさと脱衣所で服を脱ごう。

此花温泉は、建物全体的に公民館色が強い。
だが、いたるところ掃除が行き届いていて
廊下もロッカーもとても綺麗にされている。

脱衣籠やロッカーの様子から
4人ほどいるな、と思う。

浴室とは壁と磨りガラスの引戸の入口で
仕切られている。中の様子は窺えない。


ガラガラッ


戸を開ける


ビンゴ



浴室へは、2段ほど下がるがほぼフラット。
爺様たちが4人いる。お願いだから
ぼくの頭を見てギョッとしないでほしい。

楕円形の浴槽が中央にデンとあり
カランが幾つか鏡と共に
壁に並んでいる。

湯はあつ湯。
汗を流して、2、3分湯船へ。
すぐに出る。

脱衣所へ戻る前に洗い場で数回
タオルを絞っては体の水滴を拭く。

チラチラと視線が痛い。
そんなに髪長いのは物珍しいかな。
ズボンと上着を着たところで
爺様がまた1人入ってきた。

どぎまぎしながら
「女湯はあっちだよ…」
と伝えてくれた。優しい。

うん、知ってる知ってる
怖がらないで。ちゃんと男だから。

「こんなナリでも…」

すると、お姉さんの声
「さっき入った若い子?いる?」
「あ、ぼくですか?」

声だけでの、やり取り
子って年でもなかろうに

「あの、財布…」
「フェッ!」

もう。ひと言で察する。

全ての状況。

またやらかしたのか。

置き忘れ。

カウンターにそのまま置いてある。

「わたしもう帰る時間だから
 気がついてよかったわ」

すごく心配そうな顔をしている。


ごめんなさい!と、平謝り。

そして

腰がちぎれるほど礼をする。





はぁ。やれやれ。

のどが渇く。

次開いてる温泉を探さねば。

昼の食料も探そう。

もう、コンビニでいいか?


11:30



引き続き、いい天気の日曜日。



近くにコンビニはないだろうか。








そして此花温泉の写真を撮り忘れる。










つづく












次回 第11章
芝居尽くし
~あの日のあなたと再会~

御期待ください





別府八湯温泉道公式HP
https://onsendo.beppu-navi.jp/ 


かけ流しクエスト
https://kakenagashi.com/category/beppuhattou 


6-dim 
https://6dim.com/ 


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