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別府湯巡り紀行 漆


この物語は

2022年11月5日、6日に

別府ビーコンプラザ

フィルハーモニアホールにて行われた

即興演劇集団「ロクディムにわか」公演

劇場観覧に乗じて

にわか湯巡りをしまくった

ある男の記録である。


目次


序章 なにも知らないのはいつものこと
第1章 別府の洗礼 
第2章 長い道のり
第3章 別府市民憲
第4章 猫の目
第5章 爽やかな海に
第6章 昼下がりのマーチ
第7章 夕暮れのビーコンプラザまで




第7章

夕暮れのビーコンプラザまで
~坂の街、別府~

1日目 15:15~17:30




15:20
かっぱの湯を後にする。

餅ケ浜温泉まで、歩いて20分ほど。
てことは…湯から出る頃には16時か。
チェックインが少し遅れるかな。


ほぼ真っ直ぐ南下する。
向かって右手に下宿みたいな
階段が特徴的な建物が現れる。


8湯目 餅ケ浜温泉

かっぱの湯に最初に向かってる時の写真
まだ日が高い。この時は閉まっていた


階段の先、2階はすぐに公民館のようだ。
ジモ泉は地域の集会所であることが多い。


共同浴場は人の集う場所。
それはずっとずっと昔からそうで、
同じ風呂に入り、同じお湯を感じ
裸で何でも話をしたのだろう。



施設入口には小さな料金箱
1階奥が女湯、手前が男湯だ。
浴場は京町温泉と似た作りになっている。

違いといえば浴槽の縁幅が
少し広い御影石になっているくらいか。

先客が二人ほど。
さっと体を洗い湯船へ。
熱めのお湯が芯まで温めてくれる。


恐らく時間的には、ここが観劇前
最後の入湯になるだろう。

あとは、宿へチェックインして
荷物を置き、会場へ向かわねばならない。

少しだけ、先のことを考える。

舞台を観たあとも、可能なら
湯巡りをするか否か。

焦る必要はない。
ただ、可能な限り巡りたい。

そうだな…見終わってからの体力と
スマホの電源が持つ間は巡ろうか。

頭の中がゴチャゴチャと相談している。
深く考えるのはよそう。
風呂を上がる。


陽が傾き、クリーム色の街。
宿へ向かっても良かったが
一軒寄りたい浴場があった。

昼間、掃除していて入れなかった
野口温泉。
寄り道になるが、行ってみよう。

線路の高架沿いを南下し、西へ。

再訪すると受付におかあさんが座っていた。
入湯している時間はない。

ちょっと聞いてみよう

「こんにちは…」
「はい、こんにちは」

「すみません、宿へ行くため時間がなくて…
 入湯はできないんですけれど…」
「あぁ、スタンプ?いいですよ」

優しい。…だが
流石に入湯もせず
ただ押印するだけというのは
湯巡りの本来の趣旨に反する。
心苦しさもある。さらに聞いてみる

「明日って何時から開いてますか」
「あー明日ね…悪いけど…」

(えっまさか…やってないのか?)

申し訳なさそうに続ける
「午前中は掃除があって開いてないの。
 昼過ぎから夜までなら入れるけど」

良かった、やってる。
明日の営業時間を知ることができた。
夕方から夜には再訪するとしよう。
お礼と再訪の旨を伝え、その場を離れる。
スタンプはその時までお預けだ。

さあ、宿へ向かおう。

大通りへ出る。

ひときわ大きな塔が見える

別府タワー。改修工事中だった
次、別府へ来る時は登ってみたい


西日が強くなりクリーム色から
橙の色味が濃くなる。

朝から随分歩いた気がする
荷物を置いたらすぐに出発だ。
とりあえず、宿へ到着。

ゲストハウス「サンライン別府」
2日間お世話になる素泊まりできる宿だ


カウンターで、簡単に施設の説明を受け
貴重品用のロッカーの鍵を預かる。

帰りはキーボックスへ鍵を返すだけ。
とてもシンプルだ。

部屋は6×6の相部屋。
壁の両側に個人スペースのベッドが
2段に3列並んでいる。ベッドは広い。
自分のスペースは下の段。
荷物を置き、少し整理する。

ロッカーは部屋の奥。
移動中に使っていたヘッドホンや
邪魔だったダウンジャケットをしまう。

トートバックに、必要最低限のモノをいれ
足早に会場へ向かうことにした。

駅くらいまでしか、道の状況は分からない。
距離感はわかるが、恐らく西側は坂道だろう。
どれくらいの勾配があるかは分からない。

時刻は16:40

17:00開場

17:30開演

…急がねば。


山が西にあると日暮れが早い。

土曜日の夕方。駅前は人が多かった。

駅の構内を通りすぎ、駅西へ

岡本太郎氏の手がけた壁画の残るビル
なんか奥に見えてますね
…あっ!


まぁ、もう行くことはないだろう。

…ないよね?

一抹の不安。

更に進むと、創作菓子屋さんの幟。
「蜜衛門」とある。
さつまいものお菓子か。芋には目がない。
お土産に良さそうだ。
大分からの帰りに考えておこう。
(湯布院の銘菓とは後に知ることになる)
おっと寄り道していられない。
坂はだんだんと角度をあげてくる。

ふいに右前方に
広大な緑の丘が現れる。別府公園か。
市街地から山側へ少し上った場所にある
地図上では正方形に近い形をしている。
会場のビーコンプラザは
対角線上の角に位置しているはずだ。
道を曲がり公園沿いに歩く。

日は沈み、夕暮れがくる。

公園内への広い入口
遠くに頭を出している建物の麓が会場だ

17:10
公園内へ入る。
驚いたのは、その植生である。

個人的な話になるが、今年から
小さいサイズの松や楓など
盆栽を触る機会が増えた。

公園内は想像していたよりずっと広く
そこに植わる木々は、軒並み巨大であった。

なんだここは…

温泉の力か…?

写真だと分かりにくいけれど
1本1本が、はちゃめちゃに でっかいのだ!
なんだこれは!巨木群におののく


溢れ出る生命力を感じ

岡本太郎みたいになりつつも

会場へ辿り着く。





ロクディム大分公演の会場 ビーコンプラザ
…でけえ。ラスボスのダンジョンかな?


階段を上り中へ入ると
エントランスホールはとても広く
既に受付への行列ができている。


列に並ぶ。
チケットを見せる客たち。
受付では一人一人に
ある紙を手渡していた。
奥の方で、客はもらった紙に
何やら言葉を書いている。


ロクディムの舞台。

何をしているのか知らない人のため
ここで皆が何を書いているのか
説明しておこう。

受付で渡される紙には
1枚ごとに違うお題が書かれている。
お題に沿った言葉を書くのだ。
皆が書いている言葉、それは
「自分の心に残っている」言葉である。

「ロクディム」とは、即興演劇集団。
話の筋も何も決められていない
即興で舞台演劇をする。
そして
この場に集った人々が記した
「言葉」によって
ストーリーは進んだり
進まなかったりする。


その「言葉」が
いい方向に向かわせるのか
はたまた
気まずい方向に進ませるのか
それは誰にも分からない。

即興の舞台で自分の「言葉」が
読み上げられるかもしれない。

そんなワクワクさえもある。

「ロクディム」は
「6」+「dimension(次元)」のこと。
誰にも分からない未知の次元へ
6人の演者が誘う、未知の体験。

ピッタリな名前だと思う。



列に並んで
もう一人で自分の番…というところで
「お題」が見えてしまった。

あっ

あれは前回の名古屋公演と同じお題…。
そんなことをしなくてもいいのに
思わず列を外れてしまった。
次の人へ譲り、また最後尾に並び直す。

フロアーで、それを見ていたスタッフが
声をかけてくれた。
「大丈夫ですか?並びなおしたようですが…」
大丈夫…と言いかけて驚いた。

見たことある顔だ。

あれ?

鄭さんじゃない?

別府へ来る動機は、彼と渡さんとの
YouTube動画を幾つか見ていたのも
ひとつの大きな要因だったのは確かだ。

https://youtu.be/ydigrCH_2Cc 

うん、あー、これはあれだ。
相手は自分を全然知らないけれど
自分は相手の顔と名前だけ知っている
なんとも気持ちの良くない状態。
どんな顔したらええんや。。

「あぁ、いえ、大丈夫ですぅ…」
微妙な愛想笑いしかでない自分。
なんとも歯がゆい。

鄭さんは舞台直前のフロアー整理に
余念がない。他のスタッフも同様だ。

若干の緊張の空気をピリッと感じる。
いい舞台の前触れとして、いい傾向だ。

結局
並びなおしても
同じお題であった。

そんなものだ。
受け入れよう。

「言葉」は、普段本人の胸の内に秘めた思い
誰にも秘密にしたかった言葉だったりするし
そんなことなかったりもする



客席へ向かう。
広い。1200人キャパのホール。
2階、3階席もあるが
解放されている席は、一般に
S席やA席と呼ばれる
中央前方に限られている様子だ。
両サイド、後方の席はエリアごと
規制線の紐が張られている。
恐らく、2階、3階席は
入口解放もしていないだろう。

コロナ対策やチケット販売状況など
理由は邪推ばかりが顔を出すが
自分としては、開催する上で
「近くで即興体験してほしい」
という思いがあったのではないか。
そう推察した。

なるべく近くで、人間らしい感情の
面白さを体感できるようにと。

見れば客席には、若い子や
小さな赤ちゃん連れもいる。

主催者の思いも事前に知っていたぼくは
胸が熱くなるのを感じた。


舞台を見る機会は、地方都市では
なかなか良い機会に恵まれない。
ぼくも生まれは北関東の田舎だ。
よく感じてきたことだ。

主催の人は、それを覆すため
学生や児童を招待しようと
開催直前までチケットを配ったり
その状況を発信し続けていた。

当然ぼくは、主催の人と
会ったこともないし
声も知らない。

けれども
奔走していた熱意の伝導は
温泉に沸く源泉のように感じていた。


席は全席が自由席。
控えめなのか、最前~3列目くらいは
空席が幾つか見える。

これ幸いと、前の方へ行く。
ただ最前列は首が疲れそうだ。
2、3列後ろの列へ入る。
こんな時、1人だと身軽で楽だ。

三重在住の自分が、大分の別府にいること自体
有り得ないくらい不思議なことだと思っている顔


静かに幕が開くのを待っていると

舞台袖から出てきた渡さんが

前説をしてくれた。

客入りを見て、2回、説明をされた。


紗幕にプロジェクター
まるで映画館のよう


会場は幾分、緊張がほぐれ

柔らかな空気感に包まれた。




暗転する前に

客席を振り返る。



規制線以外の

解放されている客席には

いっぱいのお客さん。



ああ。

良かった。

自分もここにいられて。







会場内が暗くなる


いよいよ幕が上がる。












つづく












次回 第8章
夜、さまよう旅路
~スマホは電池切れ~

御期待ください





別府八湯温泉道公式HP
別府へ湯巡りに行くなら読んで損なし!
https://onsendo.beppu-navi.jp/ 


かけ流しクエスト
湯巡りに参照したサイト。地図が便利!
https://kakenagashi.com/category/beppuhattou 


6-dim
https://6dim.com/ 


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