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いい夢みろよ 宴発夢行 直行便


難波橋 橋上

妙に開放感があるなぁとは思ったんだ…。
店を出た時から、なんだか肩が軽いなと。
そら、上着を着てなかったら身軽だわ。

忘れ物するのはなぜか、一体誰のせいだ?
酒のせいか?いや、自分のせいだな…
誰のせいにもできない現実を受け止める。

テクテクと、来た道を戻る。

終電はなくなった。


走ったせいか、最後に飲んだお湯割りが
体に一気に回るのを感じる。ホカホカする。


脳内では『この後』が議題に提示される。
以下は矢継ぎ早に出た意見である。

「またお酒が飲めるぞ~。やったね!」
「時間もあまり気にしなくていいよな」
「バンドの人ともお話できるかもしれない」
「お開きになったら、大阪を歩きませんか?」
「わしゃ大阪城って行ったことないのぅ」
「腹も減ってきた、なんか食べようぜ?」

あんまり、ロクなものがない。
けど、そうね
賑やかなことだ。

失敗や後悔は一瞬に過ぎ去る。
生きている時間は有限だからな。
楽しくやろう。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


雲州堂 再び

しょぼくれていても仕方がないので
朗らかな顔をしてお店へ近づく。
店先には数人のお客さんがいて
谷澤さんとお話している。

通りの暗がりから現れた私を見つけ
幽霊を見つけたみたいな顔をする谷澤さん

「お久しぶり」
また訳の分からないことを口走る

「な、なにかありました?」

「いや、上着忘れちゃってサ…」

「そんな…言ってくれたら送ったのに」

おぉ、その選択肢もあったか
酒浸りの脳ミソがのんきに思う。
思うと同時に、こう口に出る。

「終電ないから、もう少し飲みますよ」

カラカラと笑いつつ、お店の中に入る。


壁を見やると、ハンガーにかかった上着が

「(置いてけぼりかよ、勘弁してくれ)」

と、恨めしそうにつぶやく。まぁ、なんだ。
戻ってきたんだ。許せ。

会場ではNさんとも再会。
軽く理由や状態を説明する。そして私は

「お酒飲まなきゃ~」

などと言いつつバーカウンターの方へ。
飲もう。今度は、慌てることなく。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


バーカウンターで頼んだのは、桃のお酒。
ちょっとだけ疲れた体には、甘いのがいい。
ホールの壁際に1人座り、心と体をいたわる。

ぼんやりとライブを反芻する。う~む。
とても良かった…。来て良かったなぁ…。

酒が進む。
酒がうまい。
うますぎる。

全体、だいぶ落ち着いてきた。

和やかな空気を肴に、手持ちの酒も空いた頃
谷澤さんがカウンターにやってくる。

こちらから声をかける。
谷澤さんと、同じお酒を頼む。

「おかげ様で、だいぶゆっくりしてます」

「なんかいつも違うグラス持ってません?」

「芋の水割り、芋のお湯割り、ときまして
 今のは桃のお酒でした。よく見てますねぇ」

ちょっとあきれ気味に

「ちゃんぽんやん…」

そして、谷澤さんはふわりと続ける

「だいぶ、つらそうやったけど大丈夫?」

はっとする。
ライブ終盤の光景が浮かぶ。

最前列で見ていた。そのせいもあってか
ステージからもばっちり見られていた。

最後の曲で、私は色々思い出して泣いていた。

谷澤さんは気付いていたのだろう。
どうやら、まぁ、ひどい顔だったようだ。
少し恥ずかしい気持ちもあったが、

「いろいろ思うとこあってね…あの曲。
 素晴らしくて、感動したんですよ。
 来てよかったです、ほんとに…」

素直な気持ちが言葉に出てくる。

「いやぁ、そう言っていただけると…」

同じお酒が手元に。乾杯する。

ただただ、素晴らしい日に立ち会えた。

ゆるやかに、深く、音楽に浸る夜。

感謝の言葉ばかりが出る。

夢のようだね


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


ホールにもまだ、わりとお客さんがいて
谷澤さんも他のお客さんと交流を深める。

私は会場側へ戻る。
もちろん手には酒。
それから上着。

Nさんはお客と2人で談笑している。
「(割って入るようで申し訳ないなー)」

そう思う一方で、

「(他に顔見知りいないしなぁ)」
「(なんだか楽しそうだ)」

と、ズケズケと入り込む。
行動と思いは必ずしも一致しない。

「やぁどーもどーも」
と、談笑に加わる。

Nさんは、コインパーキングに車を停め
そこを今日のキャンプ地とするらしい。
また、翌日には移動する。
といった話をしている。

「やぁ~、過酷なことするなぁ!」

「人のこと言えないでしょ!この人ね…」

「うわーヤバい人おるわー」

酔っぱらいを相手する優しい2人は
私のバカな話も、笑って受け取ってくれた。

他愛ない話に花が咲く。

ありがたいなぁ…


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

時間は過ぎ去り、22時を回る。

すっと、また帰りの電車の時間を調べてみる。
翌朝も久居の近くで「みどりの日」なのだ。
大阪は、一体何時に出たらいいのか?

Oh…my…

出発は鶴橋、05:44で?
伊勢中川到着は、07:33の予定なぁ。

例えば寝過ごしちゃったりして
松阪まで行ってしまう、とかは怖いから
伊勢中川で止まってくれるのはありがたい。

というか、これがマストかな。
移動時間は寝る時間だ。
名張で起きるけど。

「みどりの日」は09:00からだから、
伊勢中川で乗り換えする時間で調整だな。
駅で暇をつぶそう。目的地は近い方がいい。


…なんか旅慣れしてきた?
ま、いいか。


そろそろお店もお開きのようで
演者の皆さんは舞台上でフォトセッション。
便乗して撮らせてもらう。

舞台下手から・斉藤慶司(br.)・加藤喬彦(ba.)
・谷澤ウッドストック(vo. Gt.)•Jin Nakaoka(ma.)
写真を撮る人まで撮るのがスキー


それぞれにお礼を言いつつ、店を出る。


上着を羽織って。さようなら。


またね。  


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


と。

歩き出したものの、ノープランである。
閑静な夜の街。暗がりにスマホが点る。
大通りまで出る前にルートを決めようか。

というか、最終地点も決めていない。
いや、決まっているか。
最終地点は駅だ。
始発の出る駅。
ええと。
大阪上本町だったか?
いや、鶴橋か。
やはり決まっていないじゃないか。
頭がうまく働かない。

そこまでは、どんなルートで目指そう。
今から出てしまうと確実に時間を持て余す。
途中で何か食事もしたい。
休息も取りたい。


土地勘がないものだから
あーでもない、こーでもないと
棒立ちのまんまで、スマホと睨めっこする。


ああもう。全然、旅慣れしていないじゃない…


そうこうしている間に店の方から一団が。
バンドメンバーのお帰りである。
Nさんも一緒にいる。私に気が付く。

「またね」から再会のスパンが短すぎる。
なんだかんだで、ご一緒することに。


難波橋北詰のセブンイレブンに立ち寄る
乾杯をするためお酒を物色する一行。
みな、やり遂げた顔をしている。

私はスッと店を出て準備する。

荷物から取り出した炭酸水に
同じく取り出した瓶。
丁寧に琥珀色の液体を注ぐ。


これを目撃したJinさんが一言

「学生の頃見たことある、ヤベエ奴だ」

エヘヘ、どうも。ヤベエ奴です。


皆が集まり、店先でささやかに乾杯。
このままコンビニの店先で宴会…と、
そんなわけにもいかず。
おのおの、自分の酒を片手に移動する。


行先は、中之島方面。
橋を渡り、途中の階段を降りる。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「…アンタ、また来たんか」


呆れ顔の白い花が迎える。


思わぬ所へ来たものだ。


しかも、思わぬ人たちと。


ああ、酔った頭が働かない。


いい夢をみている。


庭園に咲くバラ

 





つづく 






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