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羽黒山小話

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「日本民俗学」の創始者であり民俗学の父・柳田國男も繰り返し読んだ、戸川安章著『羽黒山二百話』をベースに、羽黒山の小話を簡単に紹介します。不定期掲載。
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記事一覧

出羽三山地域の安産への祈り【羽黒山小話】

 いつの世も出産は命がけです。そのため、無事の出産を祈願し、数々の安産への祈りの痕跡である「安産守り」の言い伝えが残されています。今回はその中から『羽黒山二百話』で取り上げられているいくつかのお話をまとめてみました。 ※この記事には疑似科学拡散の意図はございません。あくまで言い伝えです。 荒沢地蔵尊の安産守り  出羽三山では昔、女性の参詣など一部「女人禁制」がありました(明治10年に解禁)。荒澤寺については明治維新後に仏像の移動があってから女性の参詣が可能になりましたが「

月山の「行者返し」についてのお話【羽黒山小話】

 皆さんは月山に登ったことはありますか?月山の9合目の仏生池から山頂までの間に「行者返し」(または行者戻し)という場所がありますが、なぜ「行者返し」と言われるのでしょうか。今回はその由来に迫ります。 出羽三山の開祖と役行者  修験道は羽黒派修験道だけでなく、全国各地にあります。その多くは、修験道の開祖を「役行者」(えんのぎょうじゃ)としています。しかしながら、羽黒派修験道については開祖は、出羽三山の開祖である能徐(蜂子皇子)です。  「役行者」(えんのぎょうじゃ)は、7

爺杉の近くにはもう一本大杉があったというお話【羽黒山小話】

 羽黒山の五重塔の近くにそびえたつ大杉・爺杉(注1)。この爺杉ですが、実は爺杉の近くにはかつてもう一本大杉があったことをご存知ですか?今回はその大杉と爺杉のお話です。 爺杉とは  爺杉とは、羽黒山にある天然記念物の杉です。昭和26年(1951年)6月9日に「羽黒山の爺スギ」として国の天然記念物に登録されました。その樹齢は1000年以上といわれ、幹も太く凛々しくそびえたつ巨木です。幹には注連縄(しめなわ)が巻かれているため、五重塔の付近に来たらどれが爺杉であるかは一目で分か

逆さの神牛のお話【羽黒山小話】

 牛と聞くと何を思い浮かべますか?牛は現代では家畜や牧場のような牧歌的なイメージが強いと思います。そんな牛と羽黒山にまつわるお話があります。 逆さの神牛  羽黒山には、神が騎乗するものとして神聖視されて神社に奉納されるような神馬・・・ではなく、神牛がいました。  なぜ、「さかさ」なのでしょうか。この神牛は燃え移った火に転がり、背中で火を消したとされています。そのため、「火難をまぬがれる」ということで、牛が火を消した際の格好になるように貼っておき、火災防止のお守りにする習

閻魔大王もさすがに背中を鑿(のみ)で削られれば痛いというお話【羽黒山小話】

刃物を当てられれば痛い  閻魔(えんま)大王と言えば、死の神や冥界の王など様々な名で称されていますが、ほとんどの絵画や彫刻のような像はどれも叱咤をするような顔つきであり、多くの人は恐ろしく感じるでしょう。 閻魔大王は仏教では菩薩の化身などとして経典に説かれるなどしていて、今も老若男女に広く伝わっています。 羽黒山にも閻魔大王の石像があります。 元々は羽黒山の御坂にあり、現在は正善院の黄金堂境内に安置されています。  神仏分離令が発令され、盛んに廃仏毀釈(廃仏)運動がなさ