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ロサンゼルス・クレイジージャーニー②『地獄の行軍とケバブ』


皆さんは『アイシールド21』を読んだことがあるだろうか。
高校アメリカンフットボール選手権秋大会東京予選に向けてアメリカで強化合宿を行っていた泥門高校アメフト部が行った、アメリカ大陸を東海岸から西海岸まで約2,000キロを2日走って1日休んでを繰り返して走破するトレーニング(拷問)である。

頭おかしいのか?


彼らは目的地がわかっていた。わかっていたからこそ仲間たちと走り抜けた。

一方自分は同じアメリカに立っていたが電波障害ゆえに進むべき方向があやふやで勘と何度か見たホテルの立地を必死に脳に浮かべてスーツケースを引きずりながら一人ひたすら暑い中歩いていた。
目的地が正しいのか曖昧すぎて日中の快晴なのに暗闇にいるかのようであった。
暑すぎるのと緊張で冷や汗が吹き出る。
試合で緊張しないのに海外で1人という状況はかなり極限まで人間を追い込んでくる。

しかし、覚悟とは暗闇の荒野に進むべき道を切り拓くことである。

古来より人間はコミュニケーションで繁栄を図ってきた。今こそ人間の根源に立ち返りコミュニケーション能力が試される時だ。
覚悟を決め、ローカルアメリカ人に話しかけて道を聞くことにした。

何をトチ狂ったのか酒屋の隣でケバブを焼いてるタンクトップのムキムキのタトゥーガッツリ入ったおっさんに元気よく片言の英語で話しかけた。

「Hello! I would like to go to Signal Hill...」(義務教育の限界で絞り出した英文)

「Oye, ¿hacer turismo?」(多分こう言ってた)

甘かった。ポルトガル語だ。

その後何言ってるかわからなかったがひたすら「Signal hill!!Signal hill!!」と繰り返す壊れた邦人の意図を汲み取ってくれたのか持ってたiPhoneで電波をテザリングしてくれて地図のスクショを撮ってエアドロで送ってくれた。
もしかしたら意味わからんアジア人を追い払いたかっただけかもしれないがめちゃくちゃ助かった。
お礼にケバブ(なんと$2.50!)を買って釣りは要らねえと$5渡して立ち去った。我ながら粋なことをしたものである。

$2.50のケバブ。なんの肉とかソースとかわからなかったけど辛めで美味しかった。


しばらくすると地図の通りに行けば真っ直ぐ進めばホテルに着く道まで辿り着いた。
かなり心に余裕が出てきていた。
「路線バスに乗ってこのまま行けば余裕じゃん!」
路線バスに一度乗って得た自信、右車線一本のまっすぐで辿り着くという確信から勝利を確信した。

しかし、1番の隙は勝利を確信した者に生まれる。

ロングビーチを走る赤いバス、通称LBT route173(これに乗るとWalter Pyramidまでいける)というバスに意気揚々と乗り込もうとして財布を開け、いざ$1.25ブッ込まんと思った矢先に気づいてしまった。

「ドルがねえ」

「Suicaいけるか」とかわけわからんこと抜かす放心した邦人を運転手が叩き出しバスはそのまま行ってしまった。
なんで現金が1$もないんだと思って気づいた。
「さっき格好つけて$5渡したんだった...!」

電波もねえ、充電もねえ、現金もねえの三重苦。
違法入国者だってもうちょいちゃんとしていると思う。
ベンチでスマホ弄ってる夫人のデカい犬がケバブの紙袋を欲しそうにしてたが犬にまでケバブを取られたら人として犬に負けてしまう。犬に対抗意識を燃やしながら目の前で食ってやった。犬に眺められながら食うケバブはスパイシーで正直めちゃくちゃ美味しかった。

でもあの時の状況の方がケバブより辛口だし犬より状況は最悪だったが無事に生きているのでよしとする。

ない金はない。財布から足が出てしまったが、足はまだ前に出せる。
残りだいたい4マイルくらい。(まだ1マイル=1.6キロと知らない)
余裕だろ!と真っ直ぐに伸びたロサンゼルスロングビーチの道路、灼熱のPacific coast high wayを歩み始めた。

暑すぎて日陰の地面に伏せた犬に見送られながら重たいスーツケースをガラガラ引きずりながらまだ6.4㎞くらい残ってることも気づかず、勝手にデスマーチを歩き出した──

③Youは何しにUberで? に続く

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