傷跡や腫れがあっても汚くないよ

 僕は段ボールに触れることができない。素手で段ボールに触ろうものなら手に激痛が走る。飲食店で使用される業務用のステンレス製の容器にも触れることができない。僕は段ボールやステンレスが怖い。絶対に素手で触りたくない。スーパーマーケットに置いてあるプラスチック製のかごも、ネット通販などでよくある梱包用の厚紙にも触りたくない。紙幣も嫌いだ。表面の小さなギザギザに指を切り裂かれるから。アルコール消毒にも耐えられない。皮膚が焼けるような痛みがする。日常生活でも苦痛の連続である。米を研ぐ際の冷水も入浴も辛い。それ以上に辛いのはかゆみである。集中力を奪ううえに傷跡をさらにひっかき痛みを増幅させる。痛みとかゆみは強固に結びつき悪循環を生む。一度でもひどい手荒れを起こせば、この悪循環に陥り完治することはない。
 手荒れなど肌に悩みを抱える人に絶対に言ってはいけない言葉がある。それは「病院行けば良いじゃん?」、「薬塗ればすぐに治るでしょ?」など肌問題を軽視した発言。病院に行っても治らない。薬を塗り続けても完治しないから困っているのだ。天候や体調によって手の状態は絶えず変化する。薬の効果が出やすい日もあれば全く効かない日もある。それは僕の力で制御できるものではない。
 僕は肌に悩むすべての人の力になりたい。もちろん赤く腫れあがり傷跡が露呈した手が人に不快感を与えることは十二分に理解している。それでも差別的な視線を送らないでほしい。僕も手荒れがひどい時は手袋を着用して舞台に立つ。手荒れや肌の問題に悩みを抱えているのは僕だけではないはず。傷跡や腫れがあっても汚いわけではない。気持ち悪くもない。僕たちにとってはかけがえのない美しい肌。そんな人たちへの正しい理解が深まることを切に願う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?