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International Myeloma Society「骨髄腫および類縁疾患に 対する新型コロナウイルスワクチンの推奨」

  今回は、International Myeloma Society(国際骨髄腫学会と訳していいのか)からでている「骨髄腫および類縁疾患に 対する新型コロナウイルスワクチンの推奨」を紹介します。

  と思ったのですが、実はすでに日本骨髄腫学会よりその和訳「骨髄腫患者に対する新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチン接種について」が出ていました。訳したのみならず、日本の現状にも即して書いてあるので、参考になると思います。

 この中で、特に患者さんに役立つと思われる点をまとめていきます。ただし、2021.4.14時点のものです。

1. ワクチンを受けるべき患者について
・ 骨髄腫患者はCOVID-19 感染の重篤化リスクと死亡のリスクが高いと推測されます。
骨髄腫ならびにその前駆疾患(MGUS およびくすぶり型骨髄腫)の患者さんもすべて COVID-19 ワクチン接種が推奨されます。ワクチン接種により、感染のリスクを下げ、感染の重篤化を防ぐと考えられます。
・ このようなガイドラインは、AL アミロイドーシスや他の症候性単クローン性ガンマグロブリン血症(POEMS症候群など)にも当てはまるでしょう。

 基本、みんな接種したほうが良いということですね。私も賛成です。ただしアナフィラキシーの既往がある患者さんは要注意です。

2. どのタイプのワクチンを使用するか
現在、2 種類の mRNA ワクチン(ファイザーとモデルナ)が主に使用されており、ともに骨髄腫患者に安全に使用可能です
・ 安全性が十分に確認されていない未承認、もしくは承認審査中のアデノウイルスベクターワクチン(アストラゼネカ、ジョンソンエンドジョンソン/ヤンセン)や組み換えタンパク質ワクチン(ノババックス)の使用は、現状では推奨されません。
・ その他、原則として骨髄腫患者は生ワクチンの接種は避けるべきです。

 和文が出たのは2021.4.14であり、アストラゼネカのワクチンは現在承認されており(この原稿執筆時点では国内の大規模接種では使用されていませんが)、今後も上記mRNAワクチン以外も続々出てくると思われます。それに伴い、おそらくアデノウィルスベクターを使用したワクチンも使用可能になる可能性が高いです。ただしアストラゼネカのものに関しては血栓症リスクの解明が待たれます。

3. ワクチン接種のタイミング
・原則は、 接種可能になり次第、すみやかにワクチン接種がすすめられます。
・ COVID-19 感染の既往はワクチン接種が禁止されるわけではなく、またワクチン接種が不要となるわけでありません。COVID-19感染後にワクチン接種を行う場合、個々の患者の状況によりますが、一般的には COVID-19 感染から 90 日以上間隔を空けることが推奨されます。
・ ワクチン成分に対するアレルギーがある場合は、ワクチン接種は基本的には禁止です。
・ワクチン接種前に好中球減少症(500 / uL 未満)がないことを確認しましょう。
血小板減少症(5万 / uL 未満)および/または抗凝固薬を服用している患者さんは、局所の出血(注射部位の血腫)を避けるために細い針(25~27G)での筋肉内接種、十分な止血(止血帯で約 10 分圧迫)、冷却などが勧められます
患者さんの骨髄腫の病勢が強い時には、ワクチン接種の目的のためだけに継続中の骨髄腫治療を中止するべきではありません
患者さんの骨髄腫の病態が安定していて、治療の中断がさほど問題にならない場合には、治療のコースとコースの合間にワクチン接種を行います。理想的には、初回ワクチン接種の 7 日前から、2 回目の接種の 7 日後までの間、骨髄腫治療を中断することが望ましいです。その場合、ワクチンの種類と投与間隔にもよりますが、多くは骨髄腫治療を約 5〜6 週間中断することになるでしょう。 骨髄腫治療は継続することが重要と考えられますので、上記のような長期間の治療中断が不可能な場合には、初回ワクチン接種は、骨髄腫治療の最終投与 2〜7 日後から次の骨髄腫治療開始 10 日前までの間に行い、2 回目のワクチン接種は適切な間隔を開けて行うことを考慮します。
ステロイドの使用:可能であれば、初回ワクチン接種の 7 日前から 2 回目の接種7 日後までの期間はステロイド投与を控えたほうがよいでしょう。
維持療法レナリドマイド単剤療法は、ワクチンの反応を増強するか、もしくはワクチン反応に影響しないと考えられており、ワクチン接種のために中断する必要はありません。 それ以外の維持療法に関しては、これまでに述べた一般的な骨髄腫治療法と同様の原則で、2 回のワクチン接種の間(初回ワクチン接種の 7 日前から2 回目の接種の 7 日後まで)は治療中断を考えるます 。デキサメタゾン(レナデックス®)が維持療法に含まれている場合は、ワクチン接種期間中は中止する必要があります。
・免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)は、ワクチンによる免疫応答を減弱させる可能性があります。可能であれば、投与から初回ワクチン接種日までに 14〜28 日の間隔を空け、また 2 回目のワクチン接種から 14 日後に IVIG の投与を遅らせることを検討しましょう。

 病状を考えると、5週間の骨髄腫治療中断をできる患者さんとそうではない患者さんがいると思います。特に現在まさに治療中の場合、5週間の休薬はどちらかというと難しい患者さんが多いのではないかと思われます。

 その場合、「初回ワクチン接種は、骨髄腫治療の最終投与 2〜7 日後から次の骨髄腫治療開始 10 日前までの間に行い、2 回目のワクチン接種は適切な間隔を開けて行う」と書いてありますから、初回ワクチン前2日間、初回ワクチン後10日間の最低で合計12日間治療を中断すればよいことになります。これであれば可能な患者さんも増えると思います。

 しかし現状、日本ではなかなか自分で接種日を細かに調整することが難しい場合もあるかもしれません。その場合は、基本接種してしまったほうが良いと指導しています。このワクチン接種の前後の休薬期間はワクチンの有効性(抗体を獲得できる確率)をあげるための措置ですが、休薬しなくても何らか害が増えるわけではありません。国・自治体主導で、接種をしている我が国では、今後どのようなワクチン供給がなされるかわかりません。接種のタイミングを逃してしまい、接種できないよりも、できる時期にしたほうがよい、というのが現場の多くの医師の共通認識だと思います。

 いずれにしろCOVID-19ワクチンは今回接種すれば一生有効というものではないと考えられます。いずれまた接種する機会はおそらくあります。

 

4. 移植や他の細胞療法に関連して
自家移植後にワクチン接種を考慮する場合、移植後 3 か月が経過してから行いましょう
・移植前にワクチン接種を計画する場合は、幹細胞採取前に接種を完了することをおすすめします。
・ 幹細胞採取を完了したものの自家移植を延期していた患者では、とくに延期が長期間にわたる場合、ワクチン接種を幹細胞採取後に行うことは妥当と考えられます。
・自家移植前にワクチン接種を受けている患者における自家移植後の再接種の必要性および適切な時期については、現在のところデータがありません。
・自家移植後 3 か月経ってから COVID-19 ワクチンを接種するという原則は、CAR-T 細胞療法を含むすべての細胞療法に一般的に当てはまります。
・2 回目のワクチン接種を遅らせることは推奨しません。ワクチンは推奨されている間隔で接種されるべきです。

 移植、CAR-T療法を受けている患者さんにおけるCOVID-19ワクチン接種については、すでにほかのnoteで触れました。そちらのほうが詳しいです。移植後は3か月あける、というのがいまの共通認識と考えてよいでしょう。

5. 臨床試験(治験)中の患者
・臨床試験(治験)中の患者に対する推奨は、一般の骨髄腫患者さんと異なることはなく、プロトコール上禁忌でなければ、ワクチン接種を勧めます。
6. 免疫応答と測定法
・ワクチンは非常に効果的だが、骨髄腫患者さんにとって実際にどのような利益があるかはまだ明らかではありません。従って、ワクチン接種後も、引き続きマスク着用、ソーシャルディスタンスの遵守は必要です。
・理想的には、介護をしている家族もワクチン接種を検討すべきです。
・健常者では、初回接種から 10 日後に最初の免疫応答が見られます。ただし骨髄腫患者さんにおけるこの免疫応答の動態は未だ不明です。
・ワクチンによる免疫応答を測定する必要はなく、推奨もされません。
・現時点では、反応が不十分な場合の追加接種の計画はありません。

 抗体価については、現状日本の医療機関で測定することはまだ一般的ではありません。



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